25日に行われた柔道の世界選手権女子48キロ級で、渡名喜風南(となき・ふうな)(パーク24)は決勝でダリア・ビロディド(ウクライナ)に敗れ、2位だった。
青畳の際が渡名喜の目に映った。一押しすればビロディドの足が場外へ踏み越える。組み手の折衝で隙を見せず、開始から2分余りを丁寧に進めてきたが、「相手を押し出そうと行ってしまって」。欲をかいた指導狙い。一瞬の魔が差した。
無理な踏み込みを相手は逃さない。払い腰。渡名喜の体が畳を打った。2年連続の銀に「勝つ自信しかなかった。悔しいです」。目を赤くした敗者に酷な時間が流れていく。
前年の決勝はビロディドに一本負け。懐の深い相手にこちらの技は急所に届かず、敗北感に打たれている。
失意を補う経験もあるにはあった。今年1月に約1週間、モンゴルに単身で武者修行。向こうの代表チームに加わり、濃密な練習環境に身を置いている。「嫌いな肉も食べたし、向こうの環境に入り込むことを意識したのがよかった」。実りの多い修行を経て、柔道にも一本の筋が通った観がある。
1年かけて練った女王への策は、相手の組み手を切らず、持たれても下がらず。前に踏み出し間合いを詰めたこの日は、渡名喜に分があった。前後を入れ替えることはできなかったが、「差が縮まった実感はある」。
柔道人生を振り返れば、子供の頃から誰かの背中を追う時間が長かった。「自分は追う立場が向いている」。挑戦者としての再度の決意を、胸に下げた銀は固めてくれた。(森田景史)