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「PA(ピーエー)って何者?」(上)在宅医療支える「無資格のプロ」

医師1人にPA2人のチームが車で患者宅を回る。

かばんに医療器具を詰めるところから始まり、スケジュール調整、車の運転、診療準備・片付け、患者や家族との会話記録、要望や困ったことなどを聞き出して関係先と連携を図る…。後輩PAが運転する車中でも薬剤の発注、相談を受けた補聴器の問い合わせなど、次々と電話をかけ続けている。管理栄養士の資格を持つ木村さんは専門学生時代に、やまと診療所で安井佑院長(39)のカバン持ちのアルバイトをしたことで在宅医療に目覚め、4年前にPA第1号となった。「(医療的には)無資格でも医師を助け、目の前の患者さんの役に立てる仕事。充実感があります」

東大医学部を卒業し途上国で医療活動に従事した経験を持つ安井院長は、医師の立場からPAの必要性を感じていた。「アメリカでは国家資格。PAというパートナーがいてくれることで医師は医療行為に集中できる。一方、日本では医師が『先生』という絶対権威に君臨し、担う領域もムダに広くて非効率」と指摘した。

やまと診療所が手がける在宅医療の現場では、治療よりも患者や家族にとって「何が幸せなのか」が重要。「最期の時間まで自分らしく生きて死ねる、そのためのプロデュースやコーディネート業に近い仕事」と安井院長。そのうえで「そこまですべて医師ができれば、それは素晴らしい赤ひげ先生だが、実際にはコミュニケーション下手な医師も多い。患者・家族の意思決定の支援ができる医療人としてPAを育成しています」

4年前に独自の在宅医療PA育成プログラムを開始し、これまでに約50人が入社した。学歴や職歴は不問だが「人が好きで素直なこと」が前提条件。3年間の見習い期間中にコミュニケーショントレーニングを徹底する。

「医療の素人であるがゆえの気づきや、医師には遠慮して伝えない本音を聞き出すことができる。PAには医師のトランスレーター(翻訳者)として患者と家族に踏み込んでゆけるコミュニケーション能力と姿勢が不可欠です。医者の後ろに隠れているだけでは問題も起きないが、役にも立たない」

これが安井院長が求めるPA像。アシスタントといいながら、完全なプロフェッショナルだ。(重松明子)

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