ゆうゆうLife

家族がいてもいなくても(606)

 ■森の朝のセレブたち

 日曜日の朝、共に暮らす仲間と近くの「フォレストカフェ」へご飯を食べに出掛けた。

 車で5分。歩くのはちょっと、という場所なので8人と犬1匹が2台に分乗。みな、つば広の帽子をかぶったり、夏のワンピースを着たりして、おしゃれをしているのがなんだか楽しい。

 そんな一行が、開店そうそうに到着すると、テラスのテーブルには、小さな花が飾られ、冷やしたワインボトルや前菜が…。おまけに、こんなメッセージまでが添えられてあった。

 「本日は、朝ワインセレブ会へご予約ありがとうございます。お楽しみください」だって。

 実は、1週間前にも何人かで朝ご飯を食べに来たのだが、中の一人が冷たい白ワインを注文して飲んでいたのだ。

 森の中でさりげなくワイングラスを傾けるその様子が、いかにもセレブのたたずまい。しかも、一緒に来たラブラドール犬のグレイシーがリードから放たれ、森の中を駆け回っている感じも素敵(すてき)だった。

 「わお~っ、これって、なんかセレブっぽい光景だわ」と声をあげてしまったのだ。

 そんなわけで、次は、朝からワインなんか飲んで、セレブではないけれど「セレブごっこ」をしましょうゾ、という話になった。

 同世代で暮らしていると、世間の常識などなんのそのに。みんな、北海道からも九州からも、なんのゆかりもないこの地まで、はるばる来てしまったのだ。家は売っちゃったから、帰る場所はもうない、と言う人も。家族がいても一人好き、これまでいろいろ大変だったから、晩年ぐらいは自由に好きに暮らしたい。

 そう、まさに「家族がいてもいなくても」の心境で、それぞれが自立自助で生きている。

 実は高齢者のコミュニティーというのは、そういう場所なのだ。だからこそ、楽しい。それゆえに面白い。

 この朝の一見あほらしいセレブごっこは、おおむね楽しく、皆日頃の分別を捨てて楽しんだけれど、やっぱりというか案の定というか、私はたかがグラス2杯のワインで酩酊(めいてい)、テラスの長椅子に横たわって過ごした。

 森の木々の隙間から青い空がのぞき、生い茂る緑の葉が光に透けて繊細なレース編みのようで美しかった。

 ま、朝から酔って空を眺める姿はまるでホームレスだけれど、やわらかな光に包まれて、私としては、これぞセレブの気分だった。(ノンフィクション作家・久田恵)

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