日本一への思いが込められた打球が二遊間を抜けていった。星稜に3-3の同点に追いつかれた直後の八回。履正社は1死三塁で野口が相手エース奥川の151キロの直球をはじき返し、1点を勝ち越し。殊勲の一打に、主将は一塁で右の拳を突き上げた。
今春の選抜大会で3安打完封を許した奥川との、最高の大舞台での再戦。試合前、岡田監督は「巨人の菅野と対戦するつもりでいけ」とプロ野球を代表するエースの名を挙げて選手を鼓舞した。一回、準決勝までの5試合はすべて先頭打者で安打を放っていた1番桃谷が遊ゴロに倒れる。それでも2番池田が高めの変化球を左翼線へ運ぶ三塁打。この回は無得点に終わったものの、苦手意識は払拭された。
選抜後、「このままじゃ日本一になれない」との危機感から練習に身が入らない部員を叱責し、嫌われ役に徹してきた野口。八回は特別な思いで打席に立った。
直前の七回には星稜の主将、山瀬が適時打を放っていた。「同じ主将として負けたくなかった」。二塁打で出た先頭の内倉を西川が犠打で送った1死三塁のチャンス。練習内容の伝達やバス移動時の点呼を担当するなど、西川がチームを献身的に支える姿を間近で見てきた。野口は「なんとしても応えてやる」と得点に結びつけてみせた。
履正社は今大会、全試合で2桁安打を放ったが、打線を成長させてくれたのは「打倒奥川」の思いだった。初めての優勝旗を手にし、野口は「春に負けたおかげ」と最大のライバルに感謝の言葉を口にした。(岡野祐己)