直球&曲球

春風亭一之輔 心身鍛える!?「東京五輪ボランティア」

夏風邪をひいてしまった。ここのところ高座の出来もイマイチ。原因はどこに行っても室内が寒いから。オモテの暑さに対して冷房が効き過ぎていて、寒暖差でやられてしまう。

電車も飛行機も寒い寒い。居眠りしたら一巻の終わりだ。家の中もクーラーがずっと稼働している。28度のしずかモードにしていても、暑がりの子供たちがいつの間にか20度のパワフルモードに変えていて、知らぬ間に身体が悲鳴を上げている。

毎年こんなことを繰り返しているので、来年は何とかならないか…と考えて、ふと思いついた。「東京五輪のボランティア」をやるのはどうだろう。夏は身体も重たくて、いい落語ができないから、仕事を休んで五輪成功のために汗をかく。普段から冷房に頼ってばかりいるのがそもそもの誤りなのだ。

五輪のボランティアの暑さ対策は『基本的に自己責任』。こんないいチャンスはない。命に関わるほどの暑さの中、命を懸けて思考し、行動すれば、モノを考える力がつくはずだ。風鈴の音、朝顔の鉢植えを愛(め)でるだけで日本人なら涼がとれるはず。

『(滞在先までの)交通費・宿泊費は自己負担』もありがたい。交通費相当分のプリペイドカードは支給されることになったらしいが、この際、たるんだおのれを律するために炎天下を徒歩で現場に向かおう。自宅に居ると子供たちのクーラー責めに遭うから、多めにシフトを入れてもらいたい。

マラソンは朝6時スタートだから、夜のうちに出発すれば問題ない。何時間か歩けばそのうち着くだろう。ボランティアなのだから『無償』も当然。日頃、甘えた自分を鍛え直すためだ。お金などもらったらバチが当たる。

殺人的な暑さに耐えて、馬車馬のように働き、アスリートたちの活躍を目の当たりにすればきっと冷房にも負けない頑強な身体と心が手に入る、はずである。根性根性。…と今、冷房の効いた部屋で書いている。…大丈夫! 日本中で祈れば、来年は絶対に冷夏になる!

暑さと寒さで私は今、バカになっている。


春風亭一之輔

しゅんぷうてい・いちのすけ 落語家。昭和53年、千葉県生まれ。日大芸術学部卒。平成13年、春風亭一朝に入門して朝左久、二つ目昇進時に一之輔を名乗る。24年、21人抜きで真打ちに抜擢(ばってき)。古典落語の滑稽噺を中心に、人情噺、新作など持ちネタは200以上。

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