【パリ=三井美奈】英領ジブラルタル自治政府は18日、7月に拿捕(だほ)したイランの大型タンカーについて、米国からの差し押さえ要請に応じないと発表した。タンカーは同日、ジブラルタルを出港した。米国は、英国によるタンカー解放を阻止し、イランに圧力をかけようとしたが、英国側は応じなかった。
ジブラルタルの地元紙によると、衛星による船舶航行情報で、タンカーはギリシャのカラマタ港を目指しているとみられる。
米裁判所は16日、タンカー差し押さえ令状を発表。タンカーはイラン革命防衛隊によるシリアへの違法な物資輸送に関わったと主張した。これに対し、自治政府は18日の声明で、英領自治区は欧州連合(EU)法に縛られるため、米国法に基づく令状執行の要請はそのまま受け入れられないとの判断を示した。
米国は今年4月、イラン革命防衛隊をテロ組織として指定し、対イラン制裁を強化したが、EU法には該当する制裁措置がないためとみられる。
自治政府は7月4日、EU制裁に反してシリアに原油を輸送しようとしたとして、英軍の支援を受けてタンカーを拿捕。今月15日、イランから、シリアに渡航させないという確約を得たとして、タンカー解放を発表した。タンカーは船員が乗船を拒むなどして出港準備が遅れ、ジブラルタルに停泊を続けていた。
英国がタンカー解放で、イランに緊張緩和を求める姿勢を示したことで、今後は、イランが拿捕した英タンカーの扱いが焦点になる。イランはジブラルタルでのタンカー拿捕後の7月半ば、ホルムズ海峡で航行規則に従わなかったとして英タンカーを拿捕した。
イラン外務省報道官は19日の記者会見で、米国によるタンカー差し押さえの動きは「深刻な結果をもたらす。実施すれば、航行の安全を危険にさらすことになる」と警告する一方、英タンカーの扱いに言及しなかった。英外務省は今月15日の声明で、「2つのタンカー問題は無関係」だとして、イランとタンカー解放をめぐる取引はないと主張した。