朝晴れエッセー

おくりもの・8月18日

私は会社を定年退職して7年になる。ときどき会って食事をしている先輩から、同僚が入院しており、あまり思わしくないことを知らされた。

この同僚は私より3歳若く、今から40年前になるがお互い20代のころ、初めて経験する水力発電所の建設工事に携り、苦楽を共にした。毎年くる年賀状では元気な様子だったので、まさか病魔と闘っているとは思いもよらなかった。

彼に電話をしてよいものか、どんな言葉をかけたらよいか迷ったが、どうしても声を聞きたくて思い切って彼の携帯にかけてみた。呼び出し音はするものの彼の声を聞くことができなかった。翌朝、何気なしに自分の携帯に彼からの着歴があったので、もう一度こちらから電話をかけてみたが応答がなかった。

その日の晩になって、再び彼から電話がかかってきた。電話の声は彼の奥さんからであった。「主人は3日前に亡くなりました。今日は告別式で今ほど帰ってきたところです」…私は言葉を失ってしまった。奥さんに片言のお悔やみをかけるのがやっとだった。

ある朝、いつものようにわが家の仏壇にお茶を注ぎながらふと気付いた。この新しい急須は香典返しでいただいたものだった。「ここに彼が生きている」。そう思ったら急に目頭が熱くなり、全身に嗚咽(おえつ)が込み上げてきた。

「今までありがとう。君に会えてよかった。安らかにお眠りください」

五十嵐 昭夫 68 福島県郡山市