実は襲名にあたり、お披露目会などはなかった。その代わり父と2人で亭主を務め、お世話になった人を自宅の茶室に招いている。いわば襲名披露の茶事だが、一席3名と人数が限られるためあと2年はかかるそうだ。京都らしい話である。「緊張しますが、その中でのお点前も庭の掃除一つとっても勉強。お客さまとの間合いや呼吸のようなもの、そんなすべての物事が茶碗造りにつながる気がします」。9月には第1子が誕生する。2年後に開く襲名後初の個展が楽しみだ。
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【用語解説】樂焼(らくやき) 桃山時代の16世紀、初代長次郎が千利休の求めで茶の湯のための赤樂・黒樂茶碗を創造し、当初は全く新しい焼物として「今焼(いまやき)」と呼ばれた。豊臣秀吉の「聚樂第(じゅらくだい)」近くに居を構えていたことなどから後に「聚樂焼き茶碗」、やがて「樂焼」「樂焼茶碗」と称される。ろくろを使わない「手捏ね」、篦削りの工程を経て、樂家独特の内窯(うちがま)で焼成。吸水・保水性に優れ、やわらかく温かみのある質感が特長。
【プロフィル】じゅうろくだい らく・きちざえもん 昭和56年、十五代樂吉左衞門(現・直入)の長男、篤人(あつんど)として京都に生まれる。平成20年、東京造形大卒、21年京都市伝統産業技術者研修・陶磁器コース修了後にイギリス留学。23年、樂家で作陶に入り、父から惣吉(そうきち)の花印を授かる。令和元年7月、十六代を襲名。