「父がストイックに茶碗と向き合うのを見てきました。今、ふすまを隔てて仕事場が隣り合うのですが、僕が入ると父の(茶碗を削っていた)篦(へら)の音が一瞬止まってまた動き始めるんです」。親子にしてこの緊張感。「父も祖父も曽祖父も、そうして歴代にない新たな茶碗を生み出してきました。僕自身も見れば十六代とわかるお茶碗を造りたいと思います」
反発しながらも窯にひかれ
茶道の家元、千家の茶碗を造る京都・樂家。十六代を継承したばかりだが、自身はよく覚えていない証拠写真がある。樂家で最も大切な窯場(かまば)(茶碗などを焼く窯が3基ある)で撮影されたものだが…。「僕が窯場にいてその下がぬれている。おもらしをしたらしいんです」
稲荷(いなり)明神を祭り、周囲にはしめ縄が張り巡らされた窯場は荘厳な空間だ。子供の頃から気軽に入れる場所ではなかった。年に2回、十数人の手伝いが集まり窯に火が入る。「朝起きるとコトン、コトンとふいご(送風する道具)の音がして特別な日だということがわかる。でもまだ僕は幼くて遠い存在だったのに、入ってみたら何かを感じたんでしょうね。畏敬の念というか畏怖に近かったかもしれません。びっくりしてしまってつい、だったんでしょう」