以来四百有余年。茶碗という限定された造形であるにもかかわらず、樂家の歴代はそれぞれが個性あふれる独自の茶碗を残したことで知られる。十五代を担った直入さんの作品も、前衛的と評され芸術性が高い。だが、考えてみると歴代の作風が違うというのが不思議。職人はよく一子相伝といいますが-。
「わが家には秘伝書も釉薬(ゆうやく)の調合などを記した文書もありません。しいていえば教えないことを教わるのが家訓でしょうか。祖父(十四代覚入(かくにゅう))は伝統とは決して踏襲ではない。その時代を生き、己の世界を築き上げねばならないと考えていたようです」と樂さんはいう。
二代も三代も初代のまねをせず、独自の茶碗を造った。教えると型にはまってしまいがちだが、樂家の伝統は違う。千家の意をくむことを第一に、時代を超えるものを当主自身が模索してオリジナリティーを追究した。
「窯(かま)を手伝っていれば手順は自然に覚える。そこから先はそれぞれです。そういえば1月4日に手始め式というのがありまして…」。聞けばその年の恵方(えほう)に向かってまず父が黒と赤の樂茶碗を造る。樂さんは弟(雅臣さん)と一緒に正座して見守った。次に樂さん、続いて弟が茶碗を造るのだそう。いわば茶碗師の仕事始めだ。