ただしかたくなな静岡県の姿勢には苦言も出ている。愛知県の大村秀章知事が「まず着手し、不都合があれば立ち止まって考えればいい」と譲歩を促すと、三重県の鈴木英敬知事も同意。山梨県の長崎幸太郎知事は「安全・安心に重大な関心を持って主張するのは当然」と理解を示すが、予定通りの開業を望んでいることに変わりはない。
静岡県の真意については「東海道新幹線の新駅建設を見返りに求めているのではないか」(JR東海幹部)とみる向きもある。
川勝平太知事は6月ごろから、着工の条件に「地域振興」を挙げ始め、JR東海の宇野護副社長らと建設予定地を視察した際には「中間駅を作る金額が一つの目安になる」と、経済的な見返りを求めるかのような言葉を口にした。川勝氏は以前から静岡空港に近い新幹線新駅設置を要望していたという事情もある。
ただ新駅についてJR東海は「空港近くにはすでに掛川駅があるので不可能」との立場。ここでも溝は埋まっていない。(田中万紀、大坪玲央)
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国土交通省は静岡県とJR東海の間の調整役として乗り出す。これまで両者の対立を静観してきたが、重い腰を上げた格好だ。ゼネコン関係者からは「静岡工区は難工事で、両者のトラブルは開業時期に影響を与える可能性が大きい」との声もあり、調整の重要度が高まっている。
石井啓一国土交通相は15日の閣議後記者会見で「(環境対策の)検討が円滑に進められるよう環境整備に努めたい」と述べ、静岡県が20、21日に開く工事の環境影響を検証するための有識者らによる専門部会に国交省担当者を同席させる考えを示した。国交省はこれまで基本的には両者の議論を静観する構えだったが、関係自治体からの要望もあり、9日にも静岡県、JR東海と共同で「状況に応じて検討促進に努める」と表明していた。
ゼネコン関係者によると、大井川の流量減少などが懸念される静岡工区には地下水がたまりやすい「断層破砕帯」があり、難工事も予想されている。ゼネコン関係者は「断層破砕帯をいかに早く突破するかが開業時期を左右する」と指摘しており、工事着工と開業に向けては、国交省が積極的に調整を進める必要がありそうだ。(大坪玲央)