虎番疾風録

江夏、圧巻の三者三振 其の参45

虎番疾風録 其の参44

ファン投票で選ばれた6人の猛虎たちの中で、掛布だけが複雑な心境でベンチに座っていた。

「カケ、ひざの具合はどうだ?」と山本浩(広島)から声を掛けられ、王(巨人)からも「無理するなよ」といたわりの言葉をもらった。運の悪いことに球宴直前の大洋戦で走者とぶつかり、ひざの痛みがぶり返していたのだ。第1戦は先発して途中からベンチに下がり、第2戦は途中出場。そして第3戦も…。

◇第3戦(7月22日)後楽園球場

全パ 000 000 001=1

全セ 000 100 10×=2

(勝)山本1勝 (敗)高橋直1敗

(S)江夏2S

(本)掛布(1)(仁科)

七回に大矢(ヤクルト)の代打で登場した。投手は仁科(ロッテ)。0-1後の2球目だ。外寄りのシュートをとらえると打球はライナーで左翼スタンドへ。

掛布がMVPを取ると思っていた。ところが九回にドラマが起こった。0-2とされた全パは九回、野村(大洋)を攻め、梨田(近鉄)の四球と門田(南海)のヒット、平野(近鉄)の中前タイムリーで1点を返し、土井(西武)の四球でなおも無死満塁と攻めつけた。ここで全セの古葉監督(広島)が投入したのが江夏(広島)だった。

昨年(54年)の日本シリーズで九回無死満塁のピンチを切り抜け、胴上げ投手になった江夏。その快投は後日「江夏の21球」と絶賛された。もっとも、大阪球場の記者席で見ていた筆者は〈無死満塁は自分でまいたタネやん。近鉄の方が情けないわ〉と思っていた。だが、このピンチは違う。マウンドに上がった江夏は瞬時に状況から計算した。

「このケースは三振しかない。緩いタマでは外野フライを打たれる。リー(ロッテ)には速いタマで三振。そして有藤(ロッテ)は内野ゴロを打たせてゲッツーや」

その言葉通り、リーを2-2からのストレートで空振りの三振。続く有藤もストレートで三振。そして最後は代打山内(南海)も三振に切って取った。「圧巻」という言葉がふさわしい三者三振。だが、江夏は渋い顔をしてこういったのである。

「結果的に三振3つというのはリリーフとしてまだまだ甘い。三振と併殺が理想なんや」-お見それいたしました。(敬称略)

虎番疾風録 其の参46

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