虎番疾風録

虎6人衆が球宴ジャック 其の参44

虎番疾風録 其の参43

昭和55年7月19日、待ちに待ったオールスター戦が開幕した。筆者はオールスターの取材が大好きだった。先輩たちは「お前、変わっとるんちゃうか」とあきれていたが、球界のスターたちを間近で見られ、話すこともできる。こんな楽しいお仕事はなかった。

55年は阪神から6選手がファン投票で選ばれた。「投手・小林」「捕手・若菜」「二塁・岡田」「三塁・掛布」「遊撃・真弓」「外野・ラインバック」―まさに〝球宴ジャック〟。1970年代は強さも華やかさも巨人の天下だったが、この年、巨人から選ばれたのはトップ当選の「一塁・王」ただ一人。〈80年代の主役は阪神やで!〉と少し鼻が高くなった。

第1戦、西宮球場。試合前のセ・リーグベンチ。気になったのは巨人・王の元気のなさだった。

「若いときのトップ選出は、成績も残しているし〝当然〟という気持ちだった。でもことしは…。ファンの応援してくれる気持ちがありがたいよ」としみじみ。背番号「1」がちょっぴり疲れているように見えた。

◇第1戦(7月19日)西宮球場

全セ 111 400 000=7

全パ 200 020 200=6

(勝)小林1勝 (敗)間柴1敗 (S)江夏1S

(本)王①(井本)、リー①(小林)、岡田①(間柴)、リー②(大野)、門田①(福士)

だが、王は打った。一回2死、パの先発井本(近鉄)から右翼へいきなり先制のホームラン。誰もが脱帽した。

この日、ドラマが起こったのは四回だ。1死一塁に真弓、二塁に若菜。そして打席が回った小林の「代打」で岡田が登場した。マウンドには間柴(日本ハム)。2―3から粘ったあとの9球目をとらえると、打球は満員の左中間スタンドへ飛び込んだ。

44年、くしくも同じ7月19日のオールスター第1戦(東京球場)で初出場のルーキー田淵(阪神)が六回の第3打席で、金田留(東映)から左翼へホームラン。岡田は初出場で「初打席」の本塁打。史上初の快挙となった。

「きのうジュニアオールスターで香川が打ちよったでしょ。たいしたもんや―と感心したんですわ」。その香川に試合前「頑張ってください」と励まされた。岡田の〝意地の一発〟。見事、MVPに輝いた。(敬称略)

虎番疾風録 其の参45

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