7月8日、筆者は日生球場にいた。虎番とはいえ1年生はどこへでも〝派遣〟される。近鉄-南海の後期1回戦、注目はこの日から1軍に昇格した「ドカベン」香川。会うのは久しぶりだった。「よっ」と声を掛けると「どうしたん、阪神ちゃうのん?」といつもの挨拶。どこにも緊張した様子はなかった。
この男、ただモンやない―。そう、みんなを認識させたのは五回だった。四回の守備から登場、五回2死走者なしで回ってきたプロ入り初打席。マウンドには井本。3球ボールのあとの4球目、ど真ん中のストレート。大きなおなかがクルリとコマのように回る。打球は快音を発して左翼へ。栗橋も一歩も動けない。なんと場外ホームラン。
「真っすぐに的を絞ってました。手応えは十分。打った瞬間に入ったと思ったけど、打球がどこへ飛んでいったか、最後は分からへんかった」
いやはや驚いた。高校生ルーキーのプロ初試合、初打席、初ホーマーは、昭和35年に中日の高木守道(県立岐阜商)が大洋戦で記録して以来、実に20年ぶりの快挙。西本監督も「オープン戦で見たときより、良くなっとる」と驚いた。
ドカベンの〝快挙〟はまだ続いた。7月18日、西武球場で行われた「ジュニアオールスター」で、またしても…。
◇7月18日 西武球場
全ウ 100 002 500=8
全イ 112 100 000=5
(勝)大久保 (敗)平田 (本)角(大町)、八木(梅沢)、香川(角)
3-5と全イのリードで迎えた七回、2死一塁で打席に入った香川は、巨人・角から左中間スタンドへ同点ホームラン。この一発が口火となって全ウはこの回、一挙5点の逆転勝ち。香川は見事、MVPに輝き、賞金100万円を獲得した。
翌19日、筆者は香川と一緒に午前9時30分、東京発の新幹線に乗り込んだ。西宮球場で行われる「オールスター第1戦」のラジオゲストに招かれていた。車内で取材―と思ったら、席に着くなり大いびきをかいて爆睡。新大阪に着いたら今度は「おなかがすいたぁ」と食堂へ直行。なんとワンタンメン、焼きめし、鶏の唐揚げをペロリ。これには同行していた南海の永井調査部長も「こいつ、どんな神経しとるんや」と改めてビックリ。そう、この男、ただモンやないのである。(敬称略)