虎番疾風録

長嶋巨人に世代交代の波 其の参42

虎番疾風録 其の参41

昭和55年のペナントレース、6年目の長嶋巨人ももがき苦しんでいた。7月3日、巨人は札幌・円山球場での広島戦に臨んだ。「首位の広島を直接叩いてウチは浮かび上がる。そのために3つ勝つ」と長嶋監督はナインに気合を入れた。

◇7月3日 円山球場

広島 200 004 010=7

巨人 000 200 010=3

(勝)山根6勝4敗 (敗)古賀2勝2敗2S

(本)王⑰(山根)、柴田⑤(山根)

ミスターの声がむなしく響いた。四回、王の右中間17号2ランで追いついた巨人は五回にチャンスを迎えた。先頭の山倉が左翼線を破る二塁打。だが、続く河埜のバントは捕邪飛。二塁走者の山倉も飛び出しアッという間の併殺。

そして六回に2番手の古賀が打ち込まれ試合は決まった。浮かび上がるどころか、広島に9・5ゲーム差をつけられての5位。「う~ん、いかん。バント失敗が痛い。河埜は決めないと―とビビっちゃったかな」と長嶋監督は頭を抱えた。

不振の原因は打線にあった。投手陣は江川、定岡、西本と若手の頑張りで6球団で唯一、防御率2点台をキープ。だが、打線は新旧交代に苦しんでいた。開幕戦の先発オーダーをみても①中堅・柴田②左翼・高田③三塁・中畑④一塁・王⑤右翼・ホワイト⑥二塁・シピン⑦遊撃・河埜⑧捕手・山倉―とV9メンバーが3人。主砲・王は40歳を迎えていた。土井守備コーチが嘆く。

「ミーティングでミスをした選手を叱るでしょ。こっちは発奮を期待しているのに、結果は萎縮してまたミスをする。ボクたちが若いころは、何か言われたら〝ようし、見ていろ!〟という気持ちになったが、いまの子たちはシュンとなってしまう。どうしたらいいんだろう」

巨人担当の先輩記者が面白い話を教えてくれた。それは阪神戦の際に宿舎となる兵庫県芦屋市の老舗旅館でのお話。

「いまの選手は夜の素振りでも、監督やコーチが見ているところでしかやらない。昔の選手は見えないところで汗を流していたねぇ」

「とにかく若手に個性がない。ひとりが〝網焼きステーキ〟を注文すると、みんなボクもボクも…。V9のころは〝オレはすき焼き〟〝ボクはオイル焼き〟といった調子でそれこそ、いろんなメニューを作らされたもんだよ」

世代交代の波に揺れる巨人。けっして人ごとではなかった。(敬称略)

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