モスクワ五輪のボイコットで世間が騒然となっていた5月27日、筆者は甲子園球場で目の前に起こった出来事に鳥肌を立てていた。スタンドは試合前から興奮状態。というのも前2試合の巨人戦で、連続のサヨナラ勝ちを演じていたからだ。
○23日巨人8回戦 1―1で迎えた九回裏、1死一、二塁で佐野が左前へサヨナラタイムリー。小林が完投で4勝目を挙げ、阪神は単独2位に浮上した。
○24日同9回戦 2―2の九回裏1死一、二塁で、竹之内が力投する堀内から右前へサヨナラヒット。そして―。
◇5月27日 甲子園球場
中日 000 010 201=4
阪神 000 010 205x=8
(勝)小林5勝1敗 (敗)金井2敗1S
(本)木俣②(山本)、真弓⑦(土屋)、谷沢⑦(山本)、大島④(山本)、石井③(小林)、竹之内⑤(金井)
ドラマは九回の攻防だった。阪神は八回に抑えの池内に代打を送った。九回に誰が投げるのか…。マウンドに上がったのはなんと小林。中西監督は〝勝負〟に出た。ところが、その代わりばな、いきなり初球を石井に左中間スタンドへ叩き込まれた。まさかの失点である。
「真っすぐを狙っているところへ、おあつらえ向きのストレートを投げ込むなんて…。常々、若い投手たちに〝こんな投球だけはするな〟といい聞かせていることを自分でやってしまった。本当に恥ずかしい。大反省です」と小林は肩を落としてベンチに座り込んだ。阪神の攻撃も九回2死走者なし。〝奇跡〟のドラマはここから始まった。
中日の金井から掛布が四球を選ぶ。続くラインバックが右前安打して一、二塁。ここで巨人戦サヨナラのヒーロー佐野が起死回生の左前タイムリー。金井はガックリ。続く榊原が四球で歩き満塁になると、竹之内が力のないストレートを左翼席へ劇的サヨナラ満塁ホームランを叩き込んだ。
ピョンピョンと跳ねるようにしてベースを一周した竹之内は「2試合続けてサヨナラのヒーローなんて生まれて初めてだよ。若い切れのいい助っ人(ボウクレア)も来たし、ワシも生活がかかっとるからな」と大きな鼻を膨らませた。これが酔わずにおらりょうか―。3試合連続のサヨナラ試合は、時代が「令和」となった今でもプロ野球記録である。(敬称略)