朝晴れエッセー

夏の陣・8月4日

今年も夏の陣の幕が切って落とされた。にっくき敵は、黒き衣をまといしG(ゴキ)。音も気配も断りもなく、わが家に侵入してくる。おそらく、この闘いはすべての戦場(家庭)でくり広げられているに違いない。

今朝、今年最初の若造Gが姿を現した。私は半世紀以上生きてきたが、お恥ずかしながらいまだにきゃつの姿を見ただけでパニックになる。だが、わが家には、齢八十を超した無敵の女大将(母)がいる。

日頃、母は足が痛い腰が痛い、筋力もないと宣(のたま)っておられるが、Gと遭遇したときの彼女は、目を疑うほどの華麗なる動き。

右手に丸めた新聞紙、左手に殺虫剤。素早く戦闘態勢に入り、目が見えにくくなった、耳鳴りがするという衰えもなんのその。Gがサッと物陰に隠れても、視覚、聴覚を研ぎ澄まし、その息の根を止めるまでは決してあきらめない。

追い詰められたGは、最後の抵抗を試みる。愚かなGは無謀にも母に飛びかかる。そんなことで母がひるむはずもなく、丸めた新聞紙で見事に払い落としたたきつける。まるで舞うようである。

哀れなるGは、チラシで丸められとどめを刺される。母は「このひとひねりが快感なのよ」とニヤリと笑う。年をとり一回り小さくなったと感じる母が、このときばかりはなんと大きく頼もしく見えることか。

「ひえ~、お母さ~ん、また出たあ」

タタタッと、軽やかな足音で駆けつけてきてくれる。

佐藤 和心 54 大阪市住吉区