朝晴れエッセー

母のカーディガン・8月3日

母の遺品整理をした。その中でちょっと古びたカーディガンが出てきた。茶色と緑で編んだ物で、少し地味だが光沢があり、ボタンが金色に輝いていた。「肌寒いとき、気軽に羽織れそう」と言って妹が持ち帰った。洗濯機で洗ってもしわにならないし、形も崩れず丈夫なので貴重な一枚だそうだ。

あるとき、母の古い写真を整理していてがくぜんとした。あのカーディガンを着て満面の笑みを浮かべた若い母がいたのだ。60年以上前、小さな化粧品店を営んでいたが、その店の前で写っていた。

生前、母に「今一番欲しいものは何?」と訊くと必ず「お母さん」と答えていた。祖母は、私が生まれる前に亡くなったが「優しくて神様みたいで、あんな人はどこを捜してもいない」と言っていた。妹は祖母に似ているそうで、母にとって妹は特別な存在だし、甘え上手だと思っていた。

母は皆分け隔てなく育ててくれたが、ふと私に「あんたには何もしてあげてない」と言ったことがある。そんな母の気持ちを思うとなぜか涙が止まらない。

これまで姉妹3人で交代で介護してきた。わがままも泣きごとも言わず、素直で「ありがとう」を忘れない母。食べられなくなっても「皆が来てくれるから生きて居りたい」と頑張っていた母。そんな母の肌に触って「すべすべしてきれいやな」と初めて甘えている自分に気付いた。あのカーディガンを着た妹を見て「よかったな、よう似合うな」と喜んでいる母の笑顔が目に浮かぶ。

三木 加代子 73 主婦 兵庫県神戸市