朝晴れエッセー

明るい声・8月2日

退職して2年、趣味ざんまいの日々を送っていたところ、退職した職場から復帰してくれないかとの連絡がきた。旅に出たり、狭い庭の手入れをしたり、読書をしたりのんびり暮らしていたところだった。

心の中で悪魔が「毎日ブラブラしているのならちょっと働いてみろよ」とささやいてくる。別の悪魔は「お前の夢の生活だろ。まだまだ続けろよ。手放しちゃだめだろ」と強く止めてくる。2人の悪魔のはざまで思案にくれたが最初の悪魔のささやきに乗ってみることにした。魔がさしたとしか言いようがない。

私の職業は小学校の教師だった。38年間の忙しい生活の後の定年退職という名のドリームライフを味わっていたのだが。

出勤初日は2年のブランクで何をしていいのか皆目見当がつかず右往左往していた。私以外の先生たちはいすに座ることもなくすごい速さで動きまわっている。学校がこんなに忙しいとは働いていたときには気付かなかった。こんなペースについていけるかと不安がさらに高まる。

そんなとき、私を覚えていてくれた子が笑顔で「先生、私のこと覚えてる」と声を掛けてくれた。名前は覚えていないが見覚えがある。「もちろん覚えているよ」と私も笑顔。別の子が「先生、ぼくのお兄ちゃんのこと覚えてる」。こちらははっきりと記憶がある。担任した子の弟だ。「もう中学校2年生だよね。元気でいるかな」とまた笑顔。

こんな声に支えられてもう2カ月。私もいすにも座らず校内を急ぎ足で動きまわるようになった。

大久保匡範(まさのり)(63) 大阪府富田林市