虎番疾風録

「KO砲」並んだ中西阪神 其の参34

虎番疾風録 其の参33

突然の監督の辞任。それでも選手たちは戦わねばならない。感傷に浸っている場合ではなかった。新生・中西阪神は翌5月16日、敵地・後楽園球場での巨人戦のため東京へ向かった。

「中西阪神」の注目は、左ひざ半月板損傷の大ケガからようやく戦列へ復帰した主砲掛布。そして、それにともなって「二塁」へコンバートされた岡田がどこまでやれるか―だった。

「白紙から出発しているんだから、どんどん何でも挑戦すればええ。守りの負担? それを言えるのはもっと経験のある選手。岡田の場合は関係ない」

中西監督は大きな期待をかけた。3番「三塁・掛布」、8番「二塁・岡田」-先発オーダーに初めて「KO」が並んだ。17日の6回戦は3-3で引き分けたものの、18日の7回戦は猛虎打線が爆発。いや、巨人打線も火を噴いた。

◇5月18日 後楽園球場

阪神 040 041 000=9

巨人 100 032 011=8

(勝)工藤3勝3敗 (敗)新浦2勝2敗1S

(本)淡口(1)(工藤)、岡田(5)(新浦)、ラインバック(4)(新浦)、原田(1)(工藤)、真弓(4)(定岡)、中畑(8)(池内)、シピン(4)(池内)

凄(すさ)まじい乱打戦。チーム最多となる岡田の5号アーチが飛び出したのは二回だ。川藤が同点の左前タイムリーを放った直後の無死二、三塁で、新浦の1-3後のストレートを左翼中段へ豪快に放り込んだ。

「実は大学時代、あまり左投手と対戦してなかったんで、プロの左投手を打てるか不安だったんです。それが、新浦さんから初ホーマーを打ったでしょ。そしたら、全然気にならなくなったんです」

新浦からの2本目の本塁打に岡田の口も快調そのもの。就任初勝利を挙げた中西監督も「こんな試合で負けとったら、監督はボケ、ボケじゃわい」と大笑いだ。試合前のことである。東京の宿舎、港区三田の「都イン東京」を出発しようとしたとき、同宿だった近鉄の西本監督とロビーでばったり出会った。

「頑張れよ!」とポーンと西本監督に肩を叩かれた中西監督は「なーに、ワシはピンチヒッターですわ」と帽子をとって照れ笑い。だが、そのあとすぐに「1打席にすべてをかけるように全力でやりますよ」と言い直した。

〈決意表明や〉実はこのとき勝てそうな気がしていたのである。(敬称略)

虎番疾風録 其の参35

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