朝晴れエッセー

最期のテーブルセッティング・7月31日

庭の片隅に咲く紫陽花(あじさい)は、まだ固い薄緑のつぼみを付け始めていた。今から2年前の6月、私は八戸市内のある内科医から、90歳になる老母の末期の肺腺がんを、その余命3カ月を告げられていた。私はそのとき、何よりも母の人生を穏やかに楽しく全うさせたかったし、加えて私たちの幸せな思い出を作りたかった。

そして、いよいよ季節は梅雨入り。紫陽花の花も、降り続く冷たい雨にぬれて、うっすら青みを帯びてきた。そんなある日、私は弘前の母の妹を訪ねた。叔母は得意の料理をごちそうしてくれたが、私が目を見張ったのは、その料理よりも、整然と並んだテーブルセッティングだった。

瀟洒(しょうしゃ)な客間のテーブルの上を、白い清潔なテーブルクロスが覆う。上にはキッチンクロスと藍色の大皿。そして三角形に形良く折られた白いナプキン。周りには金色のフォーク、ナイフとスプーンが並ぶ。このとき私は、母を喜ばせるのはこれだと思った。帰るや否や、百貨店の食器売り場でセッティング用のクロスなどを求めた。

そしてある日の夕方の食事のとき、買ってきたクロスなどを見よう見まねで、居間の座卓の上に広げて、食事を共にした。「あら、今日は何の日かしら」と母の喜ぶ声。「私たちの楽しい宴よ」と朗らかに答えた。その晩は、母は上機嫌だった。

が、数日後、母は胸の激しい痛みを訴えて即入院。日ごとに衰弱して最期を迎えた。「ありがとう。私は幸せだった」と、家族に言い残して…。2年を経て、私は今年も見事に咲く紫陽花の季節を迎えた。

内藤理恵子(65)青森県八戸市