朝晴れエッセー

クリアな世界・7月30日

白内障の手術をした。手術の翌日、看護師さんがガーゼを外してくれたときの驚きは今も忘れない。世界が一変した。

看護師さんの輪郭がくっきりと見え、周りの景色がキラキラと輝いていた。窓の外を見れば植木の葉一枚一枚が生き生きとしていた。遠くのただべったりと見えていた山が、いろいろな木々から成り立ち、みかんがたくさんなっているのが見えた。

談話室のテレビの鮮明な画面に「これ4Kじゃないわよね」と思わず口をついて出た。「そう思うわよね」と手術を終えた人たちは口をそろえて言う。

そして洗面所へ行ってがくぜんとした。鏡に老婆(ろうば)が映っていたのだ。梅干しばあさんとは良く言ったもの。口の周りがシワクチャ、毛穴がブツブツ、シミだらけ。エッ! これが私! 今まで若いといわれてその気になっていた自分が恥ずかしく、消えてしまいたい気持ちになった。

「ショックだわ」と言うと「私もよくまあこんな顔で平気で街を歩いていたと思うわよ」と答えてくれた。「でもあなたそんなにひどくないわよ」と慰め合い、「家に帰るとほこりだらけでまたまた、ショックなんですって」「見たくないものまで見えるのも困るわね」と笑い合った。

でもあのくすんで煤(すす)けた世界からこのクリアな晴れ晴れした世界に連れてきてもらえて感謝いっぱいだった。あれから6カ月、確かに視力は良くなっているのに、あのときのクリアという感覚はなくなってしまった。慣れは恐ろしい。

田形 文 70 静岡市駿河区