ホテルオークラ福岡(福岡市博多区)で26日に開かれた九州「正論」懇話会の第142回講演会で、元米国務省日本部長のケビン・メア氏は「日米は真の同盟となった。日本の防衛力の向上を米国は歓迎する」と述べ、中国や北朝鮮などの脅威への抑止力向上を訴えた。講演の主な内容は次の通り。
日本に対する脅威はいくつかある。中国、北朝鮮、イラン、ロシア。特に中国の脅威に対抗するには、日米の協力が不可欠だ。
日米安全保障条約に基づく米国の役割は2つ。その一つは、日本の防衛に「寄与」すること。日本国民の多くは、米国が日本を防衛すると思っているが、それは間違い。日本の基本的な防衛責任は、日本にある。米軍は一緒に守る。
もう一つは、極東の平和と安全の維持に寄与することだ。つまり日本にある米軍基地は、極東の平和維持に寄与する。
一方で、日本の役割は施設、つまり基地を提供することだけ。
米国からみると、危機が起きたときに、日本に何を期待できるかという課題があったが、第2次安倍政権が誕生して以降、日米は真の同盟、真のパートナーになった。
悪夢の民主党政権の後、安倍政権が誕生し、日本の安全保障政策は大きく変わった。それ以前の自民党政権と比べても、現実的な対策をとり、自衛隊の社会的地位は上がった。
まず、日本版NSC(国家安全保障会議)をつくった。日本の省庁は縦割りだが、官邸が調整できるようになり、安全保障の面で指導力が強くなった。
特定秘密保護法ができたのも重要なことだ。多くのマスコミの反発があったが、米軍にとって日本側が機密を守れるかは、以前から問題だった。(法整備によって)米国は情報を、日本に提供できるようになった。
安全保障法制で(限定的に)集団的自衛権の行使が可能となった。
集団的自衛権を行使できるようになり、米国と日本は一つのネットワークの中で、中国と戦えるようになった。量で勝る中国に対処するには、これしかない。
このように日本独自の防衛力、抑止力が向上している。
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長期的にみれば、中国が最大の脅威だ。中国は南シナ海と東シナ海の覇権を狙っている。
それだけでなく中国は、軍事産業、防衛産業の世界的供給網を支配しようとしている。軍事上の重要部品や材料(を作る会社)に投資している。難しい問題だ。サイバー攻撃で、あちこちの会社の知的財産を盗んでいる。
中国の脅威がなくなることはない。
もう一つの脅威は北朝鮮だ。トランプ大統領は北朝鮮に対しては、すごくナイーブ(うぶ)だ。シンガポールで会って、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と恋に落ちてしまった。だまされている。
(米朝協議は)本当は成功していない。それのに、政治家が「成功した」と言うのは、現実をみておらず、危ない。
北朝鮮はまだ、核兵器をミサイルに搭載できないと思う。だが時間の問題であり、防がないと達成してしまう。そして日本は、北朝鮮が持っているミサイルの射程に入っている。
今の日本は、北朝鮮に反撃する独自の能力を持っていない。長距離ミサイルなどを早く導入すべきだ。それで金委員長の計算が変わる。
抑止力とは、できるだけ戦争にならないようにすることだ。歴史をみれば、弱い者が攻撃される。強くならないといけない。
韓国は直接の脅威ではないが、困った国だと思う。日米にも歴史問題はあったが、乗り越えた。
朝鮮半島で危機が起これば、日本の協力がなければ、米国は韓国を守ることはできない。それなのに、韓国は解決した歴史問題を何度も取り上げる。米国政府もうんざりしている。
政治的基盤が弱い文在寅(ムン・ジェイン)大統領が終わるまで、解決はしないだろう。
先日、ロシア軍機が竹島(島根県隠岐の島町)を領空侵犯した。中国と一緒に、日韓関係という火に油を注ごうという狙いだろう。
イラン問題もある。日本は中東の石油と天然ガスに頼っている。
もしイランが、ホルムズ海峡を閉鎖し、民間船舶が自由に航行できない状態になればどうなるか。日本では原発もほとんど動いておらず、大変な問題となる。
エネルギーは経済の血液だ。なくなれば流通制度も破壊され、人は食べることができなくなる。
米国は、イランと戦争にならないように、タンカー護衛の有志連合をつくろうとしている。
日本は、ぐずぐすと学者のような法律的議論をしている余地はない。そう私は思っている。参加するか、早く決めないといけない。有志連合の形でなく、日本独自の行動でも良いと思う。日本の海上自衛隊は、米国が頼りにするほど、高い掃海(機雷除去など)能力を持っている。
経済も日本の脅威となる。経済成長がなければ政府の収入が伸びず、防衛予算も増やせないからだ。目の前の脅威に対処するには、お金がかかる。
企業の経営者は、内部留保を生かして、経済成長を果たしてほしい。
米国の現政権を信頼できるのか、と思う人がいるかもしれない。私はトランプ大統領であっても問題ないと思う。いま、米軍と日本の自衛隊はすごく良い関係だ。事務レベルでも同盟関係は機能している。米国は日本を信頼している。
だからこそ、日本が強くなることを米国は歓迎している。中国に対処するために、日米が一緒に戦う必要がある。