虎番疾風録

「そろそろ出そう」予感的中 其の参29

虎番疾風録 其の参28

「ほれみてみい、そやからはよ使えと言うとったやろ」。スタンドの虎ファンはみな誇らしげにこう言った。

背番号「16」は一気に開花した。4月24日の大洋5回戦、試合は田中―遠藤の継投に2―6と敗れたが、岡田は4打数3安打2打点。九回には2死二、三塁で遠藤に追い込まれながらも、3球目のフォークボールを中前へ弾き返し初めての猛打賞獲得だ。

テレビを見ていた北陽時代の恩師・松岡監督も「あいつはね、ポーカーフェースというかボーッとしてて、見てくれは悪いが、内に秘めたる闘志はすごいんですわ」。えらい言われようである。

5月1日、ゴールデンウイークの巨人戦。甲子園球場には4万3千人の大観衆が詰めかけた。お目当てはもちろん「8番・三塁」で先発出場した岡田だ。

◇5月1日 甲子園球場

巨人 002 000 000=2

阪神 030 000 00×=3

(勝)江本2勝2敗 (敗)新浦1勝1敗

(S)池内2敗2S

(本)岡田①(新浦)、ホワイト④(江本)


二回だ。1死一、三塁で回ってきた第1打席、新浦の4球目を叩くと打球はライナーで左中間ラッキーゾーンへ飛び込んだ。試合前のことである。練習を終えた岡田がポツリとつぶやいた。「出そうな気がする」。大学時代から予感がしたときはたいがい打てたという。まさに〝予感の初アーチ〟だ。筆者はすぐにスタンドの父親・勇郎さん、母親・サカヨさんのところへ向かった。

――試合前「そろそろ出そうや」と言ってたんですよ

「そうでしょう。きのう電話で〝最初の頃は打席に入っても、ピッチャーしか見えんかったが、いまはセカンドやショートの動きも見える〟と言うてましたからね。でもまさか、本当にホームラン打つとは…。体中にピリピリと電流が走りましたわ」。勇郎さんはうれしそうに話した。

3日の中日戦(甲子園)では、エース星野から外角よりのカーブを左翼へ2試合連続ホームラン。「ボール球なのに…」と星野は絶句した。単なるヒットではなく、甘い球をスタンドへ叩き込める岡田のパンチ力の証明だった。

いまや猛虎の話題は岡田一色。そんなとき、ふと、主砲掛布のことが気になったのである。(敬称略)

虎番疾風録 其の参30

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