虎番疾風録

ファン思い受け 小津球団社長、動く 其の参27

虎番疾風録 其の参26

4月21日、横浜市鶴見区の片山整形外科記念病院で、掛布の痛めた左ひざの精密検査が行われた。関節に造影剤を注入しての検査。結果は「左ひざの半月板損傷」と判明。全治1カ月の重傷だった。

そのころ、横浜の宿舎「サテライトホテル」ではブレイザー監督が報道陣を相手に、いつもの持論を展開していた。

「どうして君たちは、そんなに岡田に執着するんだ」

――われわれが執着しているのでない。ファンが岡田のプレーを見たいと願っているんだ

「ファンの気持ちは、私もよく分かっている。私が岡田を使わないのは、彼が好きとか嫌いとかという問題ではない」

――そんなことは言っていない。なぜ、使わないのかを聞きたいのだ

「それは岡田はもう少し2軍で経験を積ませたうえで使った方が彼のためになると考えているからだ。監督としてどうすればベストかを考えてやっている。これからもそれは変わらない」

――そうはいっても、ファンの気持ちも無視はできない。それに、使ってみなければ、やれるかどうかも分からないではないか

「何度も言うが、岡田にとって一番いいのは1軍の試合で代打で経験を積み、2軍の試合に出てゲームに慣れること。アメリカではファンはこういうことで騒いだりはしない。なぜ、分かってくれないんだ」

記者たちの執拗(しつよう)な質問にさすがのブレイザーもうんざりの表情だ。この停滞ムードを打開するには、もう小津球団社長の出馬しかなかった。

「岡田を使ってほしい―というファンの思いはよく分かる。私も掛布の欠場が岡田にとって一つのチャンスになるのでは―と思っていた。シーズン前には、選手起用や作戦面についてフロントからは口を出さないと言ったが、こうなれば営業サイドの立場から意見を言わせてもらわなきゃいかんだろう」

同日、大阪・梅田の球団事務所で記者たちに囲まれた小津社長も決断を迫られていた。

事態は風雲急を告げていた。ブレイザー家族への心ないファンの〝嫌がらせ〟がエスカレートし始めていたのだ。もう時間の猶予はなかった。小津社長はその日の夜、横浜のブレイザー監督へ電話を入れたのである。(敬称略)

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