中東の大国イランと米国の対立が風雲急を告げている。双方からの要請を受け、日本は仲介外交に乗り出したが、6月13日の安倍晋三首相とイランの最高指導者ハメネイ師の会談直前に日本企業が運行するタンカーが攻撃を受ける事態となり、イランの犯行を疑う米国と否定するイランの狭間で難しい立場に置かれた。その教訓と今後のイラン情勢の見通しは-。
日本外交に「新たな地平」
日本の中東における仲介外交のデビュー戦はほろ苦い結果に終わったが、日本の首相として41年ぶりとなったイラン訪問それ自体は、日本外交の新たな地平を拓くものとして「画期的」と外交当局者の間で評価されている。
ただ、苦い経験から教訓をくみ取り、今後に生かさなければ、仲介外交を試みた意義そのものが失われてしまうだろう。政策シンクタンクの公益財団法人「日本国際問題研究所」(JIIA)は7月3日、「ペルシャ湾の緊張緩和に向けて日本はどうすべきか」をテーマに、一橋大学国際・公共政策大学院(IPP)と緊急座談会を共催した。
中東を俯瞰するビジョンを
座談会の討論で、中東情勢に詳しい池内恵・東京大学先端科学技術研究センター教授は、首相の仲介外交の意思表明から約2週間でイラン訪問を実現した外務官僚の労をおもんぱかりながらも、「中東の物事のまわり方はさらに速い」と指摘。中東の平和と安定は武装勢力などの非国家主体も交えた多国間の勢力均衡の上にかろうじて成立していることを踏まえ、「2週間あれば、あらゆる勢力が日本の訪問を無力化する手を打ってくる。現状のやり方を続けると確実に毎回(今回のタンカー攻撃のように)何かをやられる」と警鐘を鳴らした。
さらに、イランが、シリアでは民兵や軍事顧問を派遣して政府側を、イエメンでは反体制側の武装組織フーシ派をそれぞれ支援するなどして地域情勢を不安定化させているとされることなどから、日本が仲介外交を成功させる上では、イランとの2国間の友好関係を維持するだけでなく、スピード感をもって多国間外交を展開することが必要だと訴えた。
多国間外交の重要性は一橋大学の秋山信将IPP院長も指摘し、「中東地域を俯瞰するような戦略やビジョンを蓄積する外交の基礎体力づくりから始める必要がある」と述べた。さらに、仲介外交が成功するには「環境が整う」ことが重要だが、「何もしていなかったら、機が熟したときに何もできない」として、中長期的に中東地域に関与し続ける忍耐強さと人材や資金などを中東外交にあてる日本政府の意思が重要になると主張した。