「むらさきのスカートの女」(「小説トリッパー」春号)で第161回芥川龍之介賞を射止めた今村夏子さん(39)は3度目の正直での受賞。17日夜、帝国ホテル(東京都千代田区)で行われた記者会見には、むらさきならぬ、ベージュのシャツワンピースに黒のカーディガンを羽織って登場。やや緊張した面持ちながら、飄々(ひょうひょう)と記者らの質問に応じた。
--(受賞が決まった)今の気持ちは
「大変驚きました。とてもうれしいです。ありがとうございます」
--受賞の報はどこで?
「レストランで担当編集者とお茶を飲みながら待っていました。『決まりました』とお電話をいただき、『ホントですか?』と返したと思います。信じられなくて、すごくびっくりしました」
<受賞作は、「むらさきのスカートの女」と呼ばれている近所の有名人の友達になりたいと願う女性「わたし」が主人公。同じ職場で働くように画策するなど、狂気とも紙一重の「わたし」の孤独な追跡と観察の日々がユーモアを交えて描かれる>
--選考委員の小川洋子さんが「選考委員によっていろんな読み方ができる」作品だと話していた。むらさきのスカートの女と黄色のカーディガンの女は、2人とも実在するのか、あるいは同一人物なのか、妄想ではないのかと。そのことがより評価を高めたという
「大変ありがたいです。多様な読み方をしてもらった方が私もうれしい」
--デビュー作「こちらあみ子」から9年。書き続けられた理由は?
「書くのはつらいですし、嫌だと思う時の方が多いんですけど、やはり楽しいからだと思います。9年で一番変わったところは、開き直ることができたというか、失敗してもいいやと思えるようになりました」
--3回目のノミネート。今回手応えはあったか
「手応えは正直ありませんでした。でも、自分らしいものが書けたなという感じはありました。あまり無理をしてないというか、身の丈にあったものが書けたと」
--芥川賞についての印象は
「私には手の届かない、一生取れないものだと思っていたので、受賞には大変驚きましたし、これからもがんばらないとな、と思っています」
--これで太宰治、三島由紀夫、芥川龍之介の名を冠した賞を獲ったが、3人の作家についての印象を
「たくさん本を読む方じゃないので、すごく難しい。一番好きなのは太宰治の短編『燈籠』。芥川龍之介の本はあまり知りません」
--受賞作に出てくる黄色のカーディガンの女性は、ストーカーのような異常性というか、視点が淡々としていた。意識したところは?
「いつも明るい人を書きたいと思っていて。深く悩まない、くよくよしない、明るい人を書きたいと。淡々としているとしたら、そういうところが出たのかなと思います」
--出身地の広島で培ったものは今後、どう生かされていくと思うか
「自分でもわからないが、18歳まで育った場所なので、必ず何らかのかたちで小説に出てくると思います」
--広島の街について
「個人的な思い出だけで語ると嫌なこともありましたけど、大事な故郷です」
--書く楽しさとは
「集中している時が楽しいです。我を忘れて自分がなくなる感じ、うまく表現できないんですけど。その楽しさをまた味わいたくて書いてる感じです」
--2歳のお子さんに報告は?
「娘には特に報告しません(笑)。あまり読んでもらいたいと思わないので。いつか娘にも読ませたいと思えるものが書けたらと思います」
--賞金100万円の使い道は
「貯金します」