熱血弁護士 堀内恭彦の一筆両断

ラグビーW杯、不変の価値を共有しよう

 いよいよ、ラグビーワールドカップ日本大会の開幕(9月20日)が近づいてきた。ラグビーを愛する者の一人として興奮を抑えきれない。1987年から始まったラグビーW杯は、オリンピック、サッカーW杯に次ぐ「世界三大スポーツイベント」のひとつである。2015年の前回大会では240万人がスタジアムに足を運び、40億人がテレビ放映に熱狂した。今回はアジア初の開催である。「ラグビー憲章」は、不変の価値として、品位(INTEGRITY)、情熱(PASSION)、結束(SOLIDARITY)、規律(DISCIPLINE)、尊重(RESPECT)の5つを掲げている。いわゆる「ラグビー精神」である。

 ラグビー精神には、大きな力がある。

 前回大会において日本は南アフリカから歴史的勝利を挙げたが、かつて南アフリカは白人が黒人を隔離・差別するアパルトヘイト(人種隔離政策)をとっており、国際的制裁から、1987年、91年W杯には出場を許されなかった。91年にようやくアパルトヘイトが撤廃され、95年、南アフリカで第3回W杯が開催されることとなったのである。

 その前年(94年)、アパルトヘイトに反対する政治犯として27年間も獄中に閉じ込められていたネルソン・マンデラ氏が、黒人初の大統領に就任した。マンデラ氏は、報復を恐れる白人たちを赦(ゆる)し、「新しい南アフリカを作るために協力してほしい」と呼びかけたのである。

 ラグビーは裕福な白人スポーツの象徴であり黒人には全く人気のないスポーツであったが、マンデラ氏はラグビーを通じて白人と黒人の融和と団結を目指した。代表メンバーは黒人の子供たちにラグビーを教えるために貧困地区を訪れ、黒人の生活・伝統に触れるなど地道な活動を続け、少しずつ黒人の信頼を勝ち得ていった。そして、決勝では優勝候補のニュージーランドを死闘の末に打ち破り、劇的な初出場初優勝の快挙を成し遂げた。人種の垣根を超えて国をひとつに結束させる大きな役割を果たしたのである。

 マンデラ氏の人間的な偉大さもさることながら、ラグビー精神が果たした役割も大きい。この感動的な物語を描いた「インビクタス」(負けざる者たち)は、ぜひ、観ていただきたい映画である。

 また、ラグビーの特徴として、多様性(ダイバーシティ)がある。ラグビー日本代表を見て、「どうして外国選手がいるのだろう?」と疑問を抱く人もいるが、ラグビーでは、必ずしもその国の国籍を持っていなくても一定の条件を満たしていれば代表選手になれるというルールがある。

 しかし、外国選手であっても、日本選手と同様、「日の丸を背負って日本のためにプレーしている」という気持ちに変わりはない。前回大会では、日本代表は、外国選手・スタッフも全員で国歌を練習し、君が代の意味を学んだりしている。素晴らしい取り組みである。

 ふり返って、私たち日本人は、自国の国旗や国歌の意味を理解し、尊重しているだろうか? 日本の歴史、伝統を学び、民族としてのプライドを持っているだろうか? 多様性を認め、他者や他国を尊重するには、まず何よりも、自己のアイデンティティーが確立されていなければならない。

 ラグビーW杯は、多くの人々がラグビー精神という不変の価値を共有し、日本人としてのアイデンティティーを見つめ直す機会となるであろう。歴史的な大会となることを期待したい。

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【プロフィル】堀内恭彦

 ほりうち・やすひこ 昭和40年、福岡市生まれ。福岡県立修猷館高校、九州大学法学部卒。弁護士法人堀内恭彦法律事務所代表。企業法務を中心に民事介入暴力対策、不当要求対策、企業防衛に詳しい。九州弁護士会連合会民事介入暴力対策委員会委員長などを歴任。九州ラグビーフットボール協会理事(スポーツ・インテグリティ担当)、元九州大学ラグビー部監督。

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