熊木徹夫の人生相談

夫の死 悔やんで、悲しくて

相談

 突然、夫が亡くなりました。不調を訴えて病院に行き、入院からわずか1カ月後に逝ってしまいました。「手遅れです」と宣告を受け、夫の親しい人に連絡すると、病室は同窓会のようににぎやかになりました。告別式にも大勢の友人に参列いただき、喪主の役目も無事果たせたとホッとしています。

 でも毎晩、眠れないのです。初めての1人暮らしにも不安があります。なぜもっと早く夫の変調に気づかなかったのか。心が痛く、泣いてばかりいます。周囲の人からも、私は責められているように感じてしまいます。

 この喪失感は、時間が癒やしてくれるのでしょうか。私は心療内科に行ったほうがいいのでしょうか。(福岡市、50代、契約社員)

回答

 あなたは今、深い森の中を彷徨(さまよ)っている。そんな森の奥にポツンと佇(ただず)む一軒家。例えばそれが心療内科なのでしょう。だから、フラリと立ち寄ってみるといい。そこでの出会いが、再びあなたが立って歩くためのよすがとなるはずと信じたい。私がもしその心療内科の医師として、あなたを迎え入れるなら、何を考えどうお話するか。考えてみましょう。

 一渡り、あなたの話を聴いた私。恐らく、押し黙ることしかできない。そしておずおずと話し出します。

 「大切な伴侶の死。私達は誰しもこのことを予(あらかじ)め考えておく必要があるのに、そんなこと考えるなんて縁起でもないなどといって、なかなか直面しようとしません。だから、事態はいつも不意打ちです。そして、悩む間も悔やむ間も悲しむ間も慈しむ間もなく、病魔が大切な彼を奪い去ってゆく。そして、全くの非日常に忙殺された後、何も成し得なかった無力感、半身がもがれたような激しい喪失感、これからどう生きるべきか分からぬ絶望感などがあなたに押し寄せてくる。今はまさにその渦中におられるのでしょう」

 そして瞑(めい)目(もく)の後、咳(せき)払い一つ。

 「人は生きてゆく過程で、どこを顧みても、悔いることは山ほどある。それが大事な人亡き後であるなら、なおさらのこと。しかし、人生のネジを逆に巻き戻すことは、誰であってもできません。今は彼岸に渡った彼だけれど、あなたには見えないだけで、きっとあなたのそばにいるはず。苦しくなったら、お墓の前で彼の名を呼んでみましょう。彼は必ずあなたの支えとなってくれます」

 今を生き急ぐことはない。再び彼岸で彼に会うときの土産話のため、毎日を大切に。それが彼の一番喜ぶことです。

回答者

 熊木徹夫 精神科医。昭和44年生まれ。「あいち熊木クリニック」院長。著書に「自己愛危機サバイバル」「ギャンブル依存症サバイバル」(ともに中外医学社)、「精神科医になる」(中公新書)など。

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