主張

九州南部の豪雨 「空振り」厭わず命守ろう

 活発な梅雨前線が列島沿いに停滞を続け、九州南部は記録的な豪雨に見舞われている。

 長時間にわたって激しい雨を降らせる線状降水帯が断続的に発生し、各地で土砂崩れや堤防決壊が起きている。

 宮崎県えびの市では、6月28日の降り始めからの総雨量が1000ミリを超えた。九州南部は土砂災害の危険度が非常に高い状況にある。

 激しい雨が峠を越え小康状態になった地域も、決して警戒を解いてはならない。

 この週末にかけても、梅雨前線は西日本から東日本に停滞し、大雨や局地的豪雨に襲われる可能性がある。

 自らの命を守るための最善の行動を、一人一人が実行することが大原則である。自治体や防災機関には、的確な情報発信や避難誘導など住民の安全確保に万全を期してもらいたい。

 気象庁は2日と3日の連日、緊急の記者会見を開き「自分の命は自ら守るという認識を持って、早めに避難してほしい」と、強く訴えた。会見では、重大な災害が差し迫った状況と判断されるときに発表する「特別警報」を出す可能性もあると表明した。

 鹿児島、宮崎、熊本の3県で100万人以上の住民を対象として避難指示・勧告が出された。

 災害のリスクが最も高まるとみられた4日午前までに、特別警報の発表には至らなかった。土砂崩れや堤防決壊は起きたが、多くの人命を脅かす大規模災害にはならなかった。

 最も危険なのは、気象庁の会見や自治体の避難指示を「大袈裟(おおげさ)な反応」と受け止め、「避難しなくても大丈夫なんだ」と考えてしまうことである。

 昨年の西日本豪雨を思い起こそう。気象庁は事前に緊急会見を開き、最大限の警戒と命を守る行動を呼びかけたが、土砂災害や河川氾濫で200人を超える犠牲者が出た。危うく難を逃れた住民の多くは「自分は大丈夫だと思った」などと話した。

 水の猛威から命を守る手立ては避難しかない。「空振り」を厭(いと)わず早期避難に徹することの大切さを心に刻むべきである。

 気象庁は警戒レベルの5段階区分や多言語化など情報発信の改善に取り組んでいる。災害・防災情報を正しく受け止め、命を守る行動につなげたい。

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