九州地方での豪雨による被害が報じられている。近年、日本で相次いでいる豪雨被害を目の当たりにして、かつてヒマラヤで聞いた地球温暖化に関するシェルパの警告を思い出した。
彼は僕にこう話した。
「エベレストは地球で一番高いところ。人間の体なら頭だ。頭に熱が出れば体中がだるくなるのと同じで、(地球温暖化で)エベレストが溶けていくことは地球全体が調子を崩すこと。ヒマラヤで起きていることは日本人にとっても無関係ではない。エベレストは世界にシグナルを送っているんだ。みんな、そのことに気が付かないと!」
実際、地球温暖化の被害は近年、ヒマラヤでも深刻である。例えば、2014年に実施された調査では、1977年から2010年の間でネパール国内の氷河の4分の1が溶けてなくなり、氷河湖の数は1466に増えた。
巨大化していく氷河湖が決壊し、洪水による被害も報告されている。国際総合山岳開発センターによれば「今世紀中にヒマラヤの氷河の3分の1が失われる」との調査報告が出された。
くだんのシェルパが日本を訪れた際、ヒマラヤで起きている氷河融解問題を訴えたが、日本から遠く離れたヒマラヤの出来事には、多くの日本人が関心を示さなかった、と嘆いていた。
僕も正直その時はピンとこなかったが、度重なる日本での豪雨被害に、シェルパの言葉を思い出していた。
昨年7月の西日本豪雨では僕も岡山県などの被災地でがれきの撤去や泥かきを行ったが、被害のあまりの大きさに唖然(あぜん)とし、現場で立ちすくんでしまった。
よく「異常気象」という表現が使われるが、めったに起きないことが起きるから「異常」なのであって、ヒマラヤの氷河融解問題も日本で繰り返される豪雨被害も気候変動による現象ならばもはや「異常」ではなく「平常」なのではないか。
過去のデータにとらわれず「災害は必ず起きる」という大前提に明日はわが身なのだとリアリティーをもって備えるべきだ。
◇
【プロフィル】野口健(のぐち・けん) アルピニスト。1973年、米ボストン生まれ。亜細亜大卒。25歳で7大陸最高峰最年少登頂の世界記録を達成(当時)。エベレスト・富士山の清掃登山、地球温暖化問題、戦没者遺骨収集など、幅広いジャンルで活躍。著書に『震災が起きた後で死なないために』(PHP新書)。