恐れていたことがついに現実となった。テンピ・キャンプも終盤に入った3月4日、雨天中止となったグランドキャニオン大との練習試合で、岡田を先発メンバーから外し、ヒルトンを「7番・一塁」で起用する予定だったことが判明したのだ。
「シーズン中には故障者も予想される。1人の選手が2つ以上のポジションをこなせたらベストだろう」と説明したものの、ブレイザー監督の頭の中にはヒルトンをどう使うか―しかなかった。
フロントは岡田をドラフトで獲得した時点で「遊撃」か「二塁」で育てる構想を描いた。「中堅」には外国人選手を入れてセンターラインの強化。だから、キャンプ前の自主トレでブレイザー監督が「岡田一塁」を打ち出したとき、小津球団社長は「看板になる選手は外野よりも、内野に置かなくてはいけない。まだ一塁ならお客さんも喜んでくれるだろうが…」と渋い表情をみせた。
6日、大洋とのオープン戦ではヒルトンが「2番・一塁」で起用され、岡田は先発から外された。そのヒルトンが三回、大洋の先発・田中から左中間へ特大のホームランを放った。
「ヒルトンにとってもブレイザーにとっても“待望の一発”やな。けど、こうなってくると、ますます岡田の使いどころがなくなってくる。大物ルーキーやのに、せっかくの素質も殺されてしまう」と、OBの後藤次男。昭和43年のドラフト1位で獲得した田淵(法大)を、キャンプで一から鍛え上げ、我慢強く使い続けた当時の監督だからいえる言葉だった。
ブレイザー監督は笑っていた。「岡田を先発から外したのは他意はない。他の選手も見たいのでヒルトンを使った。彼は肩ができれば一塁と二塁の両方をやらせる。岡田? できるだけ使っていくが、まずは戦えるチーム作りだ」。まるで今の岡田はいらない―と言っているように虎番たちには聞こえた。ある記者が尋ねた。
――掛布も1年目から使われて順調に成長してきた。岡田はどうなのか?
すると、不愉快そうな顔したブレイザー監督は、無言で自分のユニホームを脱ぐような格好をしてみせた。
《それだけ言うのなら、お前たちがユニホームを着て監督をしてみろ》
それは、これから始まる監督と報道陣との“対立”のきっかけとなった。(敬称略)