虎番疾風録

本物の暗雲、キャンプ地水浸し 其の参13

虎番疾風録 其の参12

阪神の米アリゾナ州テンピ・キャンプに本物の“暗雲”が垂れ込めた。初日こそ晴れたものの、それ以降は雨、雨、雨の毎日。球場は水浸し、練習は立ち往生。初日に“特打ち”をした掛布や佐野、竹之内らは200本を打ったものの、他の選手たちは5日間でたった30本。

今回は日本で“お留守番”となった筆者も翌昭和56年のテンピ・キャンプに参加したが、雨の練習中止は一日もなし。朝、洗濯したパンツやシャツをホテルの部屋の窓ガラスに張り付けておくと、練習から帰ってきたときにはパリパリに乾いていた。

“異常気象”は米西海岸全体に広がっていた。ロサンゼルスでは市内の低地帯の住宅で千戸以上の家屋が浸水や濁流に流され、テレビでは連日、ヘリコプターで救出される人々が映しだされた。アリゾナ、ユタ、アイダホ各州でも川の氾濫や土砂崩れなどの被害が出ていた。アリゾナ州の地元新聞によると『アメリカ合衆国が建国されるはるか昔、インディアンの時代にまで遡(さかのぼ)る500年来の豪雨』という。練習日程は大きく狂った。

「とにかく打ち込み不足。投手のタマも打ってないし、シートバッティングもしていない。こんな状態でゲームに出ると、どうしてもタマを追いかけたスイングになる。それが自分の打撃フォームを崩す原因になるのが怖い」と掛布。これはもう笑い事ではなかった。

そんなテンピにサンケイスポーツの企画『偏見キャンプ』の取材で、作家の阿部牧郎がやってきた。フェニックス空港で「時間がかかるよ」と言ってくれたタクシーの運転手に「カネと時間には糸目はつけねぇ」と大見えを切って乗り込んだ。予想通り大渋滞に巻き込まれた。テンピ手前のソルト川が雨で氾濫し数カ所の橋が使用不可能。残ったひとつの橋に車が殺到したのだ。普通なら20分の道のりが5時間近くかかるという。

「カシャ、カシャと上がる料金メーターの音が怖くなった」。幸い3時間でテンピ到着。車内でグッタリ疲れた阿部が料金メーターを見ると、なんと「400ドル」。大見えを切ったてまえ「仕方なしと観念した」。ところが運転手の要求は「40ドル」。「えっ?と思ってメーターを見たら、ボーッとなってボクがひと桁見間違えていたんだ。うれしくなって10ドルもチップをあげちゃったよ」。阿部は笑っていた。(敬称略)

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