日本の商業捕鯨が復活した。国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を踏まえての31年ぶりの再開である。
これまで南極海などで続けてきた調査捕鯨から手を引き、日本の排他的経済水域(EEZ)内でミンククジラ、イワシクジラ、ニタリクジラを捕獲する。
再開初日には釧路沖でミンククジラ2頭が捕獲された。水産庁が設定した12月末までの3種のクジラの捕獲枠は計227頭だ。
海に囲まれた日本と捕鯨の関係は古く、食文化をはじめ、さまざまな形で暮らしの中に生きている。正当な日本の主張として商業捕鯨の復活を位置づけたい。
だが、世界では鯨類愛護の思想が地球環境問題と融合し、反捕鯨の声が高まる一方だ。
本来はクジラの保護と同時に捕鯨産業の発展を目指すべきIWCさえ機能不全に陥った。日本が脱退した事情はここにある。
日本はクジラを水産資源とみなしているのに対し、オーストラリアなどでは人類の友人という親近感に満ちた特別な存在だ。どちらにも譲れない言い分がある。
隔たりの解消に当たっては、クジラについての科学的知見が豊富な日本からの丁寧な情報発信が不可欠だろう。
クジラの適切な保護には、種ごとの個体数をはじめ、分布や食性、栄養状態といった生物資源学の基礎データが必須だが、それらの多くは日本の調査捕鯨によって整えられてきた。
南極海のシロナガスクジラの個体数が回復しないのは、餌で競合するミンククジラが急増しているためであることなども日本の研究成果の一例である。
今回、日本は商業捕鯨に転換したが、関係者にはこれからもクジラの保護に役立つ科学研究を持続してもらいたい。その成果を海外に積極的に発信すべきである。
商業主義一色の捕鯨と誤解されると国際裁判のリスクが高まる。EEZ内での活動であっても予断は許されないのが、クジラを取り巻く今日の世界情勢だ。
国内では若年層を中心に鯨肉の味を知らない世代が増えている。早急な需要の回復も商業捕鯨の課題である。
課題は山のようにある。対応を誤ればマグロやウナギの問題でも世界の逆風が吹き寄せよう。真の鯨類保護の道も遠ざかる。