朝晴れエッセー

ファイト!・7月1日

母が施設に入居して8年が過ぎた。現在93歳である。老いによる身体の衰えに加え6年前にパーキンソン病を発病した。3年前には長男を亡くし心身ともに限界であるはずだ。昨年夏からは嚥下(えんげ)機能も著しく低下し、もう流動食しかのどを通らない…なのになんだろう、あの半端ない好奇心と頭の回転の速さは。

それはたぶん、生きることへの意欲を失わないからだ。その原動力の一つが短歌作りである。ベッドの中で指を折っては歌を作っている。

ほとんど寝たきりの身体で母の世界は一日中つけっぱなしのテレビとヘルパーさんたちとの少しの会話だけである。施設での生活の中で、母は「キラリと光る何か」を今も拾い続けている。「歌壇」にも掲載された作品の中に、決してあきらめない母の姿を見ることができる。

心晴れぬ時も何をか口ずさみコツコツとゆく杖(つえ)を片手に

昨日出来し事今朝も出来まずまずと安堵(あんど)し立ちて一日始まる

戒名も遺影も定めあと「源氏」読破するまで決して逝かぬぞ

五七五と指おり数うその指の皺(しわ)の多きよ皺の深きよ

糸のような身体になっても生き続けようとする姿勢は見事である。本当はたまらなくしんどいのだろうけど、そんな母親に毎度毎度振り回される私はちょっとかわいそうではあるけれど、ひとつの命と最後まで丁寧に向かい合っている母の姿にエールを送る。お母ちゃん、ファイト!

大久保 優 67 神戸市中央区