新聞に喝!

変革の時代、ニュースに付加価値必須 インド太平洋問題研究所理事長・簑原俊洋

先日、トランプ大統領はフロリダ州で正式に出馬表明を行い、2期目を目指しての強い執念と意気込みを見せた。こうした様子について、日本の諸紙は〈情報〉として正確に伝えた。しかし、この程度の情報なら、ネット上に幾多ある無料のニュース・サイトを見れば事足りよう。ならば新聞に求められるのは、近年読者が減り続けている厳しい現実を踏まえ、新聞としていかに〈情報〉に付加価値を与えられるかにある。

トヨタ自動車の豊田章男社長いわく、自動車産業は「100年に1度の大変革」時代を迎えている。そのため、社運をかけて未来の「モビリティ社会」を築くための新たな事業モデルづくりに挑むという。自動運転や、車と人工知能(AI)を融合する新技術への積極的な投資と開発によって、次の時代を切り開ける自動車業界とは異なり、新聞業界ができることは限られている。

つまり、情報の内容を磨き、鋭い分析と解説を加えることによって紙面を充実させて魅力を高めるだけでなく、必読のニュース媒体としての位置づけを確固たるものにする以外に方法はない。にもかかわらず、近年の日本の諸紙からこうした気迫は伝わってこない。逆に最近目につくのは、保革双方の政治路線に沿ったイデオロギーに基づく自己満足的かつ一方的な主張、あるいは品格の欠片が微塵(みじん)もない広告(最近では1面を占有する場合もある)の類だ。

冒頭のトランプ演説に関して言えば、虚偽ないし誤解を招く発言が無数にあったことに関する検証は必要となろう。さらには、ヒラリー・クリントン氏、民主党、不法移民などをアメリカへの脅威だと決めつけ、恐怖をあおる手法に依拠する演説は、トランプ氏を除く大統領では前例なきものだ。こうした事実を丁寧に解説した上で本質を捉えて読者に伝えるのが「質の高い」メディアに求められる姿である。現在、フェイクニュースが氾濫しているからこそ、なおさらだ。

むろん、全世界の国々に対してこのレベルでの分析を求めるのは到底無理だし、読者もそれを望んでいない。だが、アメリカという唯一無二の同盟国だからこそ、同国の実態に対してより鋭く切り込むニュースを提供し、読者を啓蒙(けいもう)する責務はある。

ネット時代の到来で新聞も大変革期にある。大変不遜ながら自動車業界と違い、10年後の日本の新聞の将来についてあまり明るいシナリオを描けない今日この頃である。

【プロフィル】簑原俊洋(みのはら・としひろ) 昭和46年、米カリフォルニア州出身。カリフォルニア大デイビス校卒。神戸大大学院博士課程修了。博士(政治学)。同大学院法学研究科教授。専門は日米関係、国際政治。

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