虎番疾風録

岡田育成よりチーム勝利優先 其の参10

虎番疾風録 其の参9

ほんまに、岡田を育てる気があるんやろか―。筆者の疑問は日ごと大きくなっていった。ブレイザー監督は岡田の守備位置について「他のポジションでもテストする」と依然、漠然とした答えばかり。真剣に「育てよう」と考えているようには思えなかった。

阪神は2月11日に米国アリゾナ州テンピでの〝春季キャンプ〟へ出発する。当然、新米の筆者は連れて行ってもらえない。そこで〈なんで一塁?〉の疑問を上司の西田デスクにぶつけてみた。

西田「今の岡田の守備力では、一塁以外に守るところがないからやろう。素質がないというてるんやない。強肩で練習も熱心。遊撃でも二塁でも時間をかけて鍛えれば必ず光る。けれど、いまの阪神にはその余裕がない」

――時間がない?

西田「そうや。ブレイザーにとってことしは〝勝負〟のかかった年。岡田の走攻守でことし戦力になるのは打撃力。それを生かすための〝一塁〟とすれば、明解な結論やろう」

――岡田の将来はどうなるんです?

西田「ブレイザーに〝育てる〟というビジョンはない。が、責めるのは当たらん。1軍の監督がチームの勝利を優先して考えることは当然なんや」

当時はまだ若くてデスクの話がなかなか理解できなかった。だが後年、ようやく納得することができた。

あくまでも私論だが、監督には大きく分けて2つのタイプがあると思う。「勝負型」と「育成型」。育成型の代表は野村監督。ブレイザーは勝負型。あくまで勝つためのチーム構成をめざす。筆者の知る中では平成16年から23年まで中日の監督を務めた落合監督がそれだ。

「選手を育てる? それはファームの仕事。ボクは育ってきた若い選手は使うが、育てるために大事な試合を使うことはしない。勝つための試合をやる。それが1軍の監督の仕事だよ」

明確な答えだった。8年間すべてのシーズンでAクラス。リーグ優勝4度、2位3度、3位1度。2位となった19年にはクライマックスシリーズを勝ち上がり、日本ハムに4勝1敗と圧勝して「日本一」に輝いた。

その意味では落合監督は〝名将〟である。だが、その一方で「あとにはぺんぺん草も生えていない」と酷評された。それは「勝負型」監督の宿命ともいえた。(敬称略)

虎番疾風録 其の参11

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