朝晴れエッセー

父のすずり箱・6月27日

隣村に続く道は、杉の木立で昼でもうす暗い。夕方は、小学生の私には、少し怖い寂しい場所でもあった。

大工仕事に行っている父を、その木立の手前で待つ。暗くなった木立の向こうから自転車の明かりが見えるとホッとする。

「お帰りなさい」「迎えにきてくれたんか!」。父の笑顔に、けがなく帰ってきてくれて安堵(あんど)する。母、妹、弟の待つわが家まで自転車の後ろに乗せてもらって大きな背中にしがみつき、父の温かさを感じた。

小学3、4年生のころ、朝起きたら「買ってやれないから作ったぞ!」。分厚い一枚板で作った勉強机、ニスも塗ってあり、3人一緒に座れる机だった。また、ブリキ板を幾重にも折り、部分部分をハンダ付けしたすずり箱もあった。ブリキの色だとかわいそうだと、色も塗ってあった。

すずり箱は、習字のある日は学校に持参した。先生が、「いいなあ、世界で一つのすずり箱や、大切に使いや!」と言ってくださったのがうれしかった。が、私はみんなが持っているような机やすずり箱が欲しかった。学校へ持っていくのが恥ずかしく思っていたが、山の中の分校は友達みんなが優しく、ひと言もからかわれなかった。

今から思えば、潤沢に工賃が入ってきたわけではなく、子供たちには、不自由な思いをさせない親の気持ちが痛いほどわかる。子を持って知る親の恩です。

父の命日が近づくと毎年、同じことを思い出す。今年もまた田舎に帰り「お父ちゃん、お母ちゃん、おおきにな!」と墓の前でお礼とおわびをし、父、母を偲(しの)びます。

中川ひふみ(69)主婦 奈良県橿原市