外交安保取材

イラン訪問「ミッション・インポッシブル」に挑んだ安倍首相

「ミッション・インポッシブル」-。今月中旬、安倍晋三首相のイラン訪問に同行するため搭乗した政府専用機の座席モニターで、世界的に有名な米国映画を見ることができた。米国とイランによる軍事的衝突の危険性が高まるなか、首相は緊張緩和に乗り出したが、訪問後も情勢はエスカレートしている。政府専用機の番組編成は、外交成果を暗示していたのか-。

「安倍首相の訪問は成功だったと考えている。今後も引き続き、首相の中東地域の平和と安定のためのイニシアチブ(主導的役割)を支持する」

イランのラフマーニ駐日大使は24日、東京・内幸町の日本記者クラブで記者会見し、首相のイラン訪問をこう評価した。

首相はイラン訪問中、最高指導者ハメネイ師やロウハニ大統領と会談した。同席したラフマーニ氏は会談について「建設的で友好的で、率直な意見交換ができた」と印象を語った。実際はどうだったのか。

現地で高まる米への反発

首相は12~14日の日程でイランを訪問した。羽田空港からテヘランまでは10時間超。時差は日本が4時間半進んでいる。

首相は12日午後(日本時間同)にテヘランに到着後、いったん市内の「エスピナス・パレス・ホテル」に入り、ロウハニ大統領との会談の舞台となるサーダーバード宮殿へと向かった。宮殿での歓迎式典では君が代の演奏もあった。

首脳会談は、河野太郎外相や谷内正太郎国家安全保障局長、野上浩太郎官房副長官が同席した少人数会合が約1時間20分、斉藤貢・駐イラン大使が加わった拡大会合が約1時間行われ、予定を大幅に超えた。

首脳会談は、米国とイラン双方と友好関係を築いている日本が、中東地域の軍事衝突回避に貢献できるかが焦点だった。日本にとっては石油資源の8割を中東に依存しており、この地域の安定は死活的に重要だ。

首相は「中東の平和と安定はこの地域だけでなく、世界の繁栄にとって不可欠であり、軍事衝突は誰も望んでいない。緊張緩和を働きかける観点から、このタイミングでイラン訪問を決断した」と述べた。ロウハニ師は「緊張緩和に向けた日本の取り組みを歓迎する。イランとしても戦争は望んでいない」と応じた。

一方でロウハニ師は、会談後「戦争が始まれば、徹底して対抗する」と米政府を牽制(けんせい)した。イランではロウハニ師が穏健派で、ハメネイ師は強硬な反米保守とされるだけに、政府内には「翌日のハメネイ師との会談はさらに厳しいものになる」(政府筋)との見方が固まった。

翌13日、首相はハメネイ師と最高指導者事務所で約50分間、向き合った。今回の訪問の最大の焦点だ。イランでは最高指導者が国政全般に最終決定権と軍に対する指揮権を握る。大統領は国会や司法と並ぶ行政の長に過ぎず、軍に対する権限はないからだ。

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