東京・原宿の歩行者天国で、原色の衣装をまとった「竹の子族」と呼ばれた若者たちが、音楽に合わせて踊った。任天堂が4月に発売した初の携帯ゲーム機「ゲーム&ウオッチ」に筆者も夢中。そんな昭和55年は〝仰天事件〟が頻繁に起こった年だった。
◆3月7日 歌手・山口百恵と俳優・三浦友和が婚約を発表。
◆5月19日 自民党の党内抗争で内閣不信任案が可決され衆議院解散。選挙期間中の6月12日、大平正芳首相が急死。
◆5月24日 モスクワ五輪への不参加が決定。
◆12月8日 元ビートルズのジョン・レノン射殺事件―など。
プロ野球界で起こった55年最初の仰天ニュース、それが1月29日に発生した巨人・王貞治の『あわや大惨事 衝突車に追突』報道だった。
「王が交通事故に巻き込まれました」。東京・代々木にある巨人・長谷川代表の自宅に、球団の広報担当から一報が入ったのは午前8時15分ごろ。長谷川代表は絶句したという。
29日の午前7時25分ごろ、神奈川県湯河原の国道で、貨物乗用車がセンターラインをオーバーし対向車と正面衝突。乗用車のすぐ後ろを走っていた王が運転する車(ベンツ450SLC)もそのあおりを受けて追突した。王は知人の結婚披露宴に出席するため、山ごもり自主トレをしていた伊豆の下賀茂から帰京する途中だった。
「王が交通事故」のニュースは瞬く間に各社に伝わり、東西の編集局は騒然となった。時間の経過とともに事故の詳細が分かってきた。
幸いにも王にけがはなかった。前の車との車間距離があったおかげで、ベンツの右のヘッドライトが壊れただけで済んだのである。午前11時ごろ自宅に戻った王は車を修理工場へ。そして11時30分過ぎには紀尾井町のホテルニューオータニで行われた知人の結婚披露宴に出席した。
「アッと思っても、とっさにハンドルは切れないものだね。ブレーキを踏んだだけ。それより、ボクの後方150メートルのところを大型のタンクローリーが走っていたんだ。もし、あの車が突っ込んできていたら…」。ホテルで記者たちに囲まれた王は興奮気味に語ったという。
〈よかったぁ〉大惨事は幸運が重なって避けられたのである。(敬称略)