朝晴れエッセー

タッパーウェア・6月23日

信州の三方山に囲まれた閑(しず)かな村が(今こそ市と呼ばれている)私の故郷である。5月、たった40人足らずの1クラスだけの友が、1年に1度クラス会で顔を合わせる。村に残った数人で順番に幹事を引き受け、この時期懐かしいひと言を添えて案内状が届く。

故郷を離れている私はこの集まり、一晩の語らいを毎年楽しみに心待ちしている。方言そのままで幼いころに戻り語らいが弾むが、そして、もうひとつの楽しみは、幹事部屋に広げられた手づくりの味の数々。

漬けもの、煮もの、揚げもの…。懐かしい故郷の味に舌鼓を打ち、別れる時には食べきれなかった田舎の味をタッパーウェアに詰めて持たせてくれる。

私はキャラブキをたくさんいただいた。「タッパーは来年お返しするね」と約束。そして翌年、私も頑張ってキャラブキをつくり、前年に借りてきたタッパーに詰めて、翌日のクラス会を楽しみにいた。

その夜、幹事からその友の死の報(しら)せが届いた。私はキャラブキを詰めたタッパーを持ったまま、涙も出ずしばらく立ちつくした。

あれから13年。

友に返しそびれたタッパーは今も私の手元にあり、毎日、友の笑顔を思い、声を思い出し、大事に使っている。

あの時友は、「返してくれなくていいから」と、笑顔で言ってくれたことも思い出す。

稲玉 和江 78 埼玉県所沢市