揺らぐ覇権

米中対立 次の段階に突入 日本も部外者ではない

神戸大の簑原俊洋教授(本人提供)
神戸大の簑原俊洋教授(本人提供)

 米国と中国の対立は確実に次の段階へ突入した。これが5月31日から6月2日までシンガポールで行われたアジア安全保障会議(シャングリラ対話)に出席した際の率直な感想である。 実際、この度の会議で最も注目されたのは、前国防長官のマティスに代わって登壇した当時の国防長官代行、シャナハン(国防長官に指名されたが、本人の意向を踏まえて大統領が撤回。現在、長官不在の最長記録を更新中)と中国の国防相としては8年ぶりに演説を行った魏鳳和(ぎ・ほうわ)だった。

 初日に登壇したシャナハンは、原稿を読みあげる際、ときどき言葉につまずき、雄弁さを欠いた。加えて彼のスピーチはマティスが同会議において語った内容をほぼ踏襲しており、周囲の期待の大きさと裏腹に迫力不足は否めなかった。

 とはいえ、その演説内容を精査すると、細かい部分で米国の政策の変化は明らかだった。たとえば、名指しこそしなかったものの、中国を明白な脅威として認識している事実に加え、自国の国益を擁護するためには中国の膨張を看過せず、有効な対抗手段を徹底的に取ると言い放った。 

 歴史家の私からすれば、シャナハンの演説は、同様にソ連を名指しはしなかったものの「米国に脅威を及ぼす国家の行動を許容せず、今後対峙(たいじ)していく」ことを明示した1947年の米大統領トルーマンの演説を想起させるものだった。

 さらに中国が「核心的利益」であると声高に訴える台湾についてシャナハンがこれまでより踏み込んだ発言をしたことからも、政策の大きなシフトがうかがえる。 実際、米国は航行の自由作戦(FONOPS)の頻度を昨年後半から大幅に増加させてほぼ月に1度のペースで実施しており、南沙諸島海域での日本を含む同盟国との軍事演習も精力的に実施している。

 台湾に関して言えば、トランプ政権は、最新鋭の戦車を含め、台湾の軍事近代化を促進させるための大規模な武器輸出に踏み切った。これは明らかに米国の台湾への新たな政策の一環として行われており、米中対立が通商問題や華為技術(ファーウェイ)などの中国企業をめぐる問題から安全保障領域へ移行したのを示唆するものだ。

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