国際日本文化研究センター(日文研、京都市西京区)が所蔵する古典絵巻「酒天童子絵巻」と「道成寺縁起」を、漫画化し、インターネットで無料配信する取り組みが注目を集めている。現代人にとって長大な古典絵巻を理解するのはハードルが高いが、なじみのある漫画スタイルになると、分かりやすく、物語に引き込まれる楽しさも味わえる。古典の理解にもつながりそうだ。
あの「手塚治虫」や「週刊少年ジャンプ」…
日文研の大衆文化研究プロジェクトの一環で、古典絵巻の新しい読み方を提案しようと、漫画原作者としても知られる大塚英志教授が監修した。
日文研所蔵の絵巻「酒天童子」。都の娘をさらう鬼を退治する物語で、計30メートルに及ぶ。これを部分的に切り取って大小のコマにレイアウト。登場人物の表情を大写しにする一方で、背景をロングショットでとらえて強弱をつけたり、吹き出しに現代語のせりふを加えたりと、ストーリーの理解につながる趣向を凝らし、約70ページの漫画に再構築。昨年12月から漫画サイト上で公開している。
鬼にさらわれ、とらわれの身となった娘の悲嘆に暮れる表情や、鬼の頭領である酒天童子が退治されるシーンが大きく強調され、迫力満点だ。
大塚教授は、「現代漫画の形式で読むことで、難解な古典のハードルを飛び越えることができる」とねらいを語る。3月末には、嫉妬に狂った女が蛇となる物語の絵巻「道成寺縁起」を同様に漫画化サイトで公開した。
大塚教授によると、戦後日本の漫画は、対象をアップショットやロングショットで切り取ってコマ割りにし、それを紙面上でつないでいく映画的な手法に影響を受けているという。手塚治虫の漫画や漫画雑誌「週刊少年ジャンプ」などが代表例だ。一般になじみの深い現代漫画の手法で古典を再構成することで、幅広い世代が楽しめるものになった。
漫画化された酒天童子絵巻は、高校の美術の授業で教材として使用されたほか、日文研の近隣の小学校の出前授業で取り上げられるなど、教育現場での活用も進んでいる。
大塚教授は、「絵巻の漫画化は面白いだけでなく、古典や日本史、美術を学ぶ入り口にもなる。小学生から大人まで世代を超えた学びの教材としての可能性を感じる」と期待している。
漫画化された2つの絵巻は、KADOKAWAが運営する漫画サイト「コミックウォーカー」( https://comic-walker.com/ )で無料配信されている。また、原画の絵巻は、日文研のホームページ上で公開されており、両者の違いを見比べることもできる。(横山由紀子)