岩田由記夫の音楽の明日

スティングがセルフカバー 人生を見つめ直した一作

 イギリスを代表するミュージシャンで、ロックバンド「ポリス」とソロ活動で次々と名曲、ヒット曲を残してきたスティング。新作は「マイ・ソングス」と題したポリス~ソロ時代の有名曲を再演奏(セルフカバー)した内容となっている。この作品は並べられた曲を見るとベストアルバムに思えるが、そうではない。過去のヒット曲を新たに録音したものとも異なる。

 スティング自身が自ら記したライナーノーツにあるように、ここに収められた曲は、彼の人生そのものなのだ。それらを彼が言うようにreimagine~再考する、見つめ直すとしたものが本作だ。現在67歳のスティングが、自分の人生=音楽を再考し、見つめ直そうと考えた時に「マイ・ソングス」は誕生したのだ。

 もうひとつ推測できるのは、人間は誰でも歳を積み重ね、そして得た現在の感性で10代、20代をやり直してみたいという思いを自己の楽曲に当てはめたとも思う。67歳の現在の感性で「見つめていたい」「孤独のメッセージ」「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」などといったヒット曲を、現在の自分ならこうアレンジ、歌い、演奏する。そういう思いもあったと思う。

 原曲と比べてアレンジは大幅にアップデートされ、より緻密になっている。ただ、ポリス~ソロを同時代で聴いてきたファンには、評価が分かれるだろう。絶対にオリジナルのほうがよいという声も少なからず聞こえて来る。スティング自身もそれが分かっていたはずだ。曲によってはキーを下げて歌っているものもあり、本作をあまり認めないオリジナル至上主義のファンには気になるかもしれない。

 デビュー以来、彼の音楽と向き合い、実際に会ってその人柄も少しは知る自分には、彼の音楽に対する誠実さが、本作を創らせたと思う。過ぎ去った人生の航路を振り返るのは、人間として自然なことだと思う。(音楽評論家)

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