「じゃみる」「げんちょ」「うんならがす」-。銚子市が発行する広報紙で、地元の方言「銚子弁」を紹介するコーナーがひそかに話題を集めている。荒々しさと素朴さが入り交じった人情味あふれる独特の言葉をユーモラスに表現する紙面構成で、市内外の愛読者を獲得。市の担当者は「方言の意味や使い方を知って、銚子のことを身近に感じてほしい」と話している。 (城之内和義)
昨年4月号から始まった連載企画「使ってみよう銚子弁」は、市が毎月発行している「広報ちょうし」の後ろから3ページ目に掲載している。
担当する秘書広報課の斉藤彩香主任主事は「毎号16ページから24ページある広報紙を最後まで読んでもらいたくて、後半に目を引く面白いコンテンツがあればと考えた。方言は人の心を揺さぶる素材。郷土愛の醸成にもつなげたい」と企画の意図を説明する。
ページ上段の半分を占めるスペースに、毎回1つの銚子弁とそれをイメージさせる写真を配置し、言葉の意味と用例を掲載している。
初回は「じゃみる」。墨汁や絵の具などがにじんでしまう状態のことで、毛筆で半紙に文字を書く様子の写真とともに、「うまぐ書げでっど思ったぁけっども、じゃみでんな」との用例を添えた。
このほか「うんならがす」(張り切る、スピードを飛ばして走る)、「こえぇ」(疲れる)、「えさけえっぺ」(家に帰ろうよ)といった、銚子出身者ならなじみのある言葉を紹介してきた。
こうした中で、ひときわ異彩を放っているのが「こがぁどへだみしゃぎ」だ。道標に書いてある古い地名「小川戸辺田三崎」のことだが、地元民でなければ何を言っているのか分からない。これには読者から「めっちゃ笑いました。何度も声に出して読んでしまった」と絶賛するメールが寄せられた。
掲載する言葉は、銚子市教育委員会が発行した「銚子のことば」などの資料を参考に選んでいる。同書によると、銚子弁は標準語に近いとされるが、江戸時代に紀州(和歌山県)から移住してきた漁師による関西系の言葉や、利根川水運の発達に伴い交流が盛んになった東北系の言葉などが入り交じっている。
さらに戦前の銚子は漁業、農業、商工業といった産業ごとに地域が分かれており、使う言葉にも若干の違いがあったという。
こうした複雑な背景を持つ銚子弁をより正確に紹介するため、言葉の採用にあたっては地元出身の職員らが監修し、仮名づかいや意味を確認している。
また、これまでの歴史的な資料にはない、新しい方言も紹介している。
「げんちょ」は、家庭用テレビゲームのカセットの不具合で画面が異常な状態になることを言う。用例は「もうちょっとでクリアできそうだったのに、げんちょっちったぁべぇ~よ~」。
銚子市内でも東部地域の、しかも30代後半から40代後半の「ファミコン世代」が使っていたという、地域も世代も限定された貴重な方言だ。
コーナー開始から1年余りが過ぎ、読者からは「毎月、楽しみにしている」「銚子弁を使ってみたい」といった反響がメールなどで寄せられている。帰省中に実家で広報紙を見て家族と思い出話に花を咲かせたという人や、市外から公式サイトなどで広報紙を愛読している人もいるという。
斉藤主任主事は「銚子弁を話題に家族や仲間で盛り上がって、コミュニケーションの輪を広げることに役立てればうれしい」と話している。