佐藤優の世界裏舞台

親友・豊島昭彦君の死

2月17日の本コラムで、埼玉県立浦和高校(浦高)時代からの親友、豊島昭彦君の半生についてのノンフィクションを書き上げたことを報告した。去年7月30日に医師から豊島君はステージ4の膵臓(すいぞう)がんであると診断された。余命の中央値は291日。豊島君は2カ月半、悩み考えた後、10月15日の深夜に、筆者に宛ててメールを送った。

メールを受信した直後に電話して同月19日に会った。豊島君のがんは肝臓とリンパに転移していて、手術や放射線治療は不可能で、抗がん剤による延命治療しか選択肢がなく、その抗がん剤もやがて効かなくなるので、最後は緩和ケアで死を待つことになるとの話だった。

筆者が「それで豊島は、何がしたい」と尋ねた。しばらく沈黙した後、豊島君は「自分がこの世に生きた証しを残したい」と答えた。そこで豊島君の半生を通じて、昭和35年前後に生まれた筆者たちが生きた時代を証言する本を作ることにした。

豊島君の意識がはっきりしているうちに本を刊行しなくてはならない。年内に豊島君に手記を書いてもらい、並行して3回ロングインタビューを行った。1月2日に原稿を書き始め、2月8日に仕上がった。そして豊島君に内容をチェックしてもらい、4月22日に講談社から『友情について 僕と豊島昭彦君の44年』というタイトルで上梓(じょうし)された。5日後の27日に豊島君と東京駅近くの「八重洲ブックセンター」でトークショーとサイン会を行った。その時点で、豊島君は元気だった。

しかし、5月1日に胸と背骨に痛みを感じ、その後は激痛に苦しめられた。自宅療養が難しくなり、21日に都内の病院に入院した。もはや緩和ケアしか取る術(すべ)はなかった。27日に病室で話をしたとき、豊島君は「僕の持ち時間はあまり残されていない。意識がはっきりしているうちに伝えておく」と言ってからこう続けた。

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