THE INTERVIEW

女優・吉行和子さん『そしていま、一人になった』 一人になって、やっと家族団欒

 吉行さんがその後の女優人生を進む上で分岐点となったのは、母の行動がきっかけだった。母が昭和24年、42歳のときに再婚し、義父とその娘との新生活が始まった。平穏な日常生活の中、驚くべき光景を目の当たりにしたことで、吉行さんの心は離れていく。

 夏の夜、吉行さんと妹、義理の妹の3人が部屋で寝ていたときのこと。義父が入ってきて、掛け布団を剥いで寝ていた3人の中で、自分の娘にだけ布団をかけて出ていった。当時寝付けなかった吉行さんの記憶に鮮明に残る瞬間だ。

 「義父はいい人だし、義理の妹にも罪はない。でも、あの場面を見て、私は心を全部開くわけにはいかないし、早くこの家を出たいという気持ちになった。(この話は)書かないと気持ちが整理できないと思い、初めて書きました」

 母の再婚を「賜(たまもの)」とも記す。「自分の道を見つけなければいけないと思って、実行し、うまくいったから」。あこがれの演劇界に居場所を見つけようと飛び込む決心を促してくれた-というのだ。

 家族がそれぞれの道を歩む転機となった母の選択。しかし、晩年、義父が亡くなると、母は籍を戻す。

 「吉行あぐり、として死んでいきたかったのでしょうね。でも、そういう勝手な人にかかわった義父は気の毒ですよ」

 吉行さんは今、都内のお墓にぶらりと出かけ、家族に近況報告するのが楽しみだという。「お墓がこんなに気楽に行けるところとは思ってなくて。墓石も洗わないんですよ、雨がきれいにしてくれるので」

 今の心境は-。「一人になったことで、家族みんなのことを考えたから、一人ではなくなりました」。紆余(うよ)曲折のあった吉行家は、不思議な磁力で絆を取り戻した。(花房壮)

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