ビジネス解読

値上げの春はもう息切れ 日銀には逆風 消費者には朗報

携帯料金は値下がり

 しかし値上げの動きは5月以降も続くわけではなさそうだ。

 4月の消費者物価指数が高い伸びとなった理由には、10連休効果で外国パック旅行費が高騰したことなど一時的な要因もある。すでに発表されている5月の東京都区部の消費者物価指数は、コアコアでの伸び率が4月を下回り、物価上昇の勢いの弱さを示した。

 さらに携帯電話各社は通信料金の値下げを相次いで打ち出しており、消費者物価指数の伸び率を0・2ポイント程度押し下げそうだ。また10月に予定される消費税増税は物価を押し上げる要因だが、同時に実施される幼児教育無償化により、上昇幅は抑え込まれるとみられている。

上がらない賃金

 一方、物価上昇の弱さは必ずしも歓迎すべき出来事ではないともいえる。

 ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査室長は「長期的にみれば物価は上がった方が経済にプラス。企業収益や賃上げにつながることが期待できる」と説明する。日銀は物価上昇率2%の達成を目標として金融政策を運営している。これも物価上昇が経済の好循環につながることを期待したうえでの取り組みだ。

 ところが現在の日本経済では、賃金の動向に明るい兆しがみられないのが現実だ。連合がまとめた31年春闘の5月8日時点の集計結果によると、平均賃金方式でみた賃上げ率は2・10%で4年連続でほぼ同水準の伸びとなっている。

値上げで冷える消費

 今年の世界経済は米中貿易摩擦などで波乱含みの展開が続き、戦後最長とされてきた日本の景気回復の継続にも黄色信号がともる。人手不足という賃金を押し上げるはずの状況もあるにはあるが、専門家の多くは「先行きの不透明感などから企業の多くは積極的に賃金を上げづらい状況だ」(大手シンクタンク)とみている。

 さらに物価上昇には企業業績を引き上げて賃金を増やすという効果が期待される半面、消費を冷やしてしまう効果も想定される。SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは「日本の正社員の賃金水準は労使交渉で決まり、物価が上がれば生活者への配慮から賃金が上がりやすくなる。ただし物価上昇幅ほどには上がらないので消費性向は落ちてしまう」と話す。

 値上げの春の息切れは日銀の期待からは外れるかもしれない。しかし値上げに見合った賃上げが見込めないのであれば、上がらない物価は消費者にとって良いニュースだろう。

(経済本部 小雲規生)

会員限定記事会員サービス詳細