映画監督、降旗(ふるはた)康男さんが5月20日、84歳で亡くなった。「駅 STATION」「鉄道員(ぽっぽや)」など16作で撮影監督を務めた木村大作さん(79)が、40年敬愛した名匠を悼む。(聞き手 石井健)
今年の2月にね、新しい映画の企画について話し合った。企画自体はその後、流れちゃったんだけど、あのときも降旗さんは「大ちゃん、頼むね」と言ってたな。「大ちゃん、頼むね」。そう言われると、僕は「はい、分かりました」って答えて、先頭に立って物事を進める。あうんの呼吸で、細かい打ち合わせなんかしない。初めて会ったのが、「駅 STATION」(昭和56年)の準備段階だから、かれこれ40年もそうやってきた。
降旗さんは5歳年上で兄貴みたいな存在だった。そして、トップの映画監督だった。一貫して描いたのは、生きることこそ第一義だということ。降旗さんはハッピーエンドが嫌いで、主人公はみんな不幸だが、それでも人間は生きていかなくてはならない、と言いたかった。
僕は、降旗さんは哲学者だと言っていた。いつも非常に意味の深いことを言う。高倉健さんは、「ごまかされているみたいな気分になるが、終わったら降旗の言ったとおりになっている」って言っていた。
降旗さんほどスタッフに愛された監督はいなかった。残念無念だ。降旗さんとは、もう少し一緒にできるだろうと思っていたのに。これで、僕にカメラを頼む監督はいなくなったな。(談)