朝晴れエッセー

富士山麓の住人として・6月7日

富士山の麓(ふもと)に生きて60年あまり、日々その幸せを感じている。

外に一歩出れば建物の屋根の間から、頂上だけだが姿が目に入る。日常使う県道からは、わたしが好きな美しい全景が眺められる。頂上の形が左右対称で、ゆるやかなすそ広がり、左中腹辺りにある宝永火口のくぼみさえアクセントに見える。気分が落ち込んでいるときでも、雄大な姿を見るだけで晴れやかになる。

麓ならではの苦労もある。まず天候が変わりやすい。朝のうちは晴れていてもすぐに雲が広がってしまう。温暖な静岡県の中にあっても、標高500メートルを超える位置にあるため、冬の寒さが厳しく積雪することもある。梅雨の時期は深い霧に覆われ、湿気が多くカビが発生しやすい。

愛知と東京に嫁いだ娘たちは、御殿場のこうした特徴を「ごてんばる」と称している。「今日は朝は晴れていたけど、すぐ曇っちゃってね」と電話やメールで嘆くと「さすがごてんばってるね~」と、変な感心をする。地元の人たちも陽気の話題になると「しようがないよ。ここは御殿場だから」と納得している。どんな条件の悪さも、富士山の麓だからと許せるようだ。それほど富士山から受ける恩恵は大きい。

今一番の気がかりは富士山の噴火。家が火山灰で覆われたり、家族や自分の身に危険が及ぶことも心配だが、富士山の美しい姿が変わってしまうことが悲しい。けれど、運悪く命を落とすことになったとしても、富士山を愛する者として本望だと思っている。

伊藤正子(64) 静岡県御殿場市